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火渦の邂逅

 
 ――ああ、このまま一緒に灼かれてしまおう。
 おまえのいない世界なんてオレはいらない。
 この身が灼かれることなど厭わない。
 未練なんて、ない。
 これから先、何も考えずにすむならば、
 もう、考えなくてすむならば、
 悲しみも、喜びも、愛しさも、憎しみも――……、
 感じなくてすむならば、
 もういい。
 この炎に全てを飲み込まれ灰に還りたい。
 きっとそこは、オレを受け入れてくれる。
 全てを持って、全てを手放して、
 滑稽なまでにちっぽけな、愚かしいまでに狂ったこのオレを――、
 闇は包んで呑み込んでくれるはず。
 行こう。直江――……、連れて行ってくれ。
 名を呼ぶだけで、狂う。
 おまえがイナイことを知っているから。もうこの世には――……、
 泣きたくなる。考えたくない。もういい、己の愚かしさを見つめるのは。
 後悔なんて――十分すぎるほど、した。
 悲憤が己を灼く。
 闇に――、還りたい。
 
 なのに何故?
 どうして温もりを感じる?
 分からない、けど。
 おまえの温もりの中で闇に還れるなら――、
 二度と味わうこと叶わないその温もりで逝けるなら――、
『高耶さん――』
 ああ――、
 ……連れて行って、くれるのか――……。
 
 
「高耶さん、どうしたんです」
「いや、なんでもない」
「なんでもないことはないでしょう」
 高耶を心配そうに覗き込んでくる直江。高耶はそんな目の前の大男に、はにかんだ微笑を向けた。
 もう、二度と出会うことはない、と。この四百年で何度思ったか。一度や二度ではない。多々あった気がする。
 それでも目の前の人物はオレの想像を遙か上回ってオレを見つけては求めてくる。
 時代の流れの中で、美しくも世界が熱く炎に包まる瞬間をこの両眼で見てきた。
 そして、何度、オレはこの世界から去ろうと考えたか。おまえは、知らない。それは衝動的なものだったけど。
 あの時も、あの時も――……、
 この男は、よくやる。
 高耶はくすりと笑った。
「だから、どうしたんです」
「いや、なんでもない。おまえは知らなくていいことだ」
 いや、きっと直江は無自覚で知っているだろう。
 直江は本気で眉を跳ね上げた。
 蛍火のごとく舞い上がる火の粉の中で――、
 その都度、オレをこの世に引き留めてきたのは――、
「聞き捨てなりませんねー、高耶さん」
 ――おまえだ。
 この男はいつでも本気なのだ。可笑しいぐらいに。
 でも、こんな男だから、
「だから、なんでもないって言ってるだろう!」
 オレはこの世に残った。
「なんでもないなら、話してくれても良いでしょう」
 自らの意志で――。
 この暖かい腕の中に、今オレは包まれている。
 
 ――end.
 
04/4/25


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