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無明の覚醒
 

 まさか、と思った。
 映るものは全て灰色に、世界は暗闇だ。
 凍結した心は何も感じない。
 なにも変わらない。
 一縷の希望はあった。
 砂塵のごとく、蜃気楼のごとく、
 その上に、
 楼閣はそびえ立っている。
 探さなければならない。
 この悪夢から抜け出すには――……、
 けれど、
 一抹の不安。
 もう、彼は――……、
 真っ白だ。
 それ以上、言葉を紡げるはずがない。
 どんなに願っても、どんなに望んでも、
 もう、取り返しがつかない。
 
 ――けれど、
 
 全てはここから始まるのだ。
 
 粉々になった全てを拾い上げて、手の中を滑らせる。
 さらさらと堕ちていく想いを握りしめ、
 空を見上げた。
 満点の星空。
 その中でも一際輝く一等星。
 
 ――願いは、ただ一つだ。
 
 最近、幼い彼が夢に現れる。
「…………」
 直江信綱は静かに唇を動かして微笑を作ってみせた。
 全ての始まりは――己の根源は、
 彼に、ある。
 何度、思い知らされたことだろうか。
 夢に現れるたびに、彼を抱きしめる。
 二度と手放さない、と。
 この二本腕で強く掻き抱いて――、
「――景虎様……」
 直江は前を見据えた。
 二度と迷わない。二度とその手を離さない。
 あなたがどんなに嫌がっても、俺は絶対に放さない……!
 あなたは俺の『全て』だから――、
 
 彼は生きている。
 証拠など、ない。
 そして、俺を待っている。
 詭弁に過ぎない。
 けれど、確信はある。
 それは、砂上の楼閣のごとく、蜃気楼のごとく、
 その先にある真理。
 
 その想いを、己を指針に彼を見つけ出す……!
 ――――必ず。
 
 直江は、薄紅色の花弁が狂おしく舞いあがる様を愛おしそうに眺め見て、
 ウィンダムのドアを開けた。
 鍵を差し込む。
 応えて目覚める動力機関。
 静かな発進だった。
 彼を捜すために――、
 決して止まることのない永久機関を携えて、
 直江は、行く。
 
 
 ――彼の元に必ず、辿り着いてみせる……!
 
 
 ――end.
 
04/5/4


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