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連鎖の予感

 
 ――おまえはおまえだよ。かわ――…………――ぁ耶だよ。
 
 不安げな眼差しを向けてきた無二の親友に揺るぎない視線と言葉で応じた。
 果たしてあの言葉は親友のためだったのか。
 今、思えば…、違ったのかもしれない。
 
 あの時、得体のしれない不安を覚えていたのは、高耶だけじゃない。自分も不安だったんだ。
 押し寄せてくる風が生温く感じて振り向いた高耶。
 一瞬垣間見たのは、動揺。
 高耶は高耶なのに、何を恐れてるのか、
 あの時は本当の意味で分からなかった。
 ただ何かが高耶に足枷をつけた。と、同時に――、
 それが始まりの合図。
 
 ――これで終わりじゃない……。
 
 漠然とした予感。
 目の前の引き返せない道。
 その口火を切ることに戦いたのは、
 動揺したは、高耶だけじゃない。
 
「…………」
 
 二人だから立っていられたのだ。
 
 ――変わっても高耶だよ。
 
 あの言葉に偽りは、ない。
 そして、自分も今――、
 
 枷でしかない自分を切り捨てることもできない世界でただ一人の親友。
 最後は自分自身より俺のことを優先してしまう隠れた優しさ。
 変わっても高耶は高耶だった。
 俺を彼は殺せない。
 だから、自分がすべきことは――、
 
 成田譲は、富士山麓の洞穴の中、眠るように意識を外界から閉ざして棺に横たえられている。
「――――」
(もう少し待ってて、高耶――)
 
 ――足手まといにはならないって決めてたのに!
 
 あんな想いは二度としたくない……!
 自分自身を知れば、今の自分も変わるだろうか。
 それでも、俺が成田譲であることには変わりがない。解っていても――……、
 広がる不安。
「…………」
 あの時、高耶が抱いた不安を今、俺も抱いているよ。
 どれだけ、あの時おまえが安堵を得たのか今なら解る。
 もし本性を知って、変わらない自信なんてない。それどころか――……。
 おまえを――……。
 それでも変わることを選んだのは、
 他でもなく、
 おまえをほっとけないからだ。
 対等な親友として、枷なんかではなく本来の関係で、最後まであり続けたい。
 だから、高耶。待ってて、
 
(今度は、俺がおまえを導くから――!)
 
 何千、何万の枝分かれした未来。
 その中におまえとの未来はあるだろうか。
 己が魂の軌跡を自覚して、今、成田譲の意識は宇宙を観る。
 
 高耶とともにある、おれが望む未来を勝ち取るために――!
 
 氷穴の中、静かに時が満ちるのを待つ。
 眠る成田譲の顔は半跏思惟のあの美しい微笑みを浮かべて、覚醒めの時を待っている。
 
 ――end.
 
04/5/15


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