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台風の夜に ガラス窓に雨が叩きつけられる音と、騒がしい風の音に眠っていた頭が起きてしまった。不愉快に思いつつ目を開けると周囲は暗く、ガタガタと窓ガラスが悲鳴を上げる。 「……そういや、台風っつってたな」 そう呟いて髪をかき上げる。今年はやけに台風が多い。しかも超特大型ばかりだ。一体どう大きくて、どう威力が強いのか判断しづらくて困る。 轟音が響いた。部屋を揺らすほどの音に、驚いて肩をぴくりと震わせた。どうやら近くに雷が落ちたらしい。 (暴風圏に入ったか…) そういえば寝る前のニュースで、深夜に東京は暴風圏に入ると言っていた。時間を確認するため、ソファから起き上がり部屋の中を見回す。部屋の中は真っ暗だが、次第に目が慣れ様子を把握することができた。部屋にはシンプルな家具がきちんと並んでいる。若い青年の部屋にしては整っているほうだろう。その部屋の主は隣の洋室で眠っているはずだ。 不思議なことに、最近この部屋によく来るようになった。確かに今は関東の怨霊退治をしているから、仮の宿には丁度いいのだけれど。ここの部屋が不思議と落ち着くから、ついつい部屋の主に甘えてしまっている。 (あれ…?) ふと、妙なことに気がついた。時刻を確認しようと思いビデオデッキを見たのだが、デジタル表示が消えている。 「停電…?」 試しに、手探りで部屋のスイッチのところまで歩いていき、スイッチをカチカチと触るが電気は点かない。本当に停電しているようだ。 「千秋さん…?」 リビングキッチンと洋室を繋ぐドアの向こうから声が聞こえた。どうやら千秋の気配に気がついたらしい。 「ああ、わり。起こしたか」 話しかけると、少し眠たそうな声が返ってくる。 「いえ、外がうるさくて寝つけなくて」 千秋は声が聞こえにくかったので、洋室のドアを手探りで押し開けた。洋室の中も暗く、鳥越の姿は見えない。 「こう暗くちゃ、飲みなおすこともできねぇな」 「え?」 千秋のセリフに鳥越は不思議そうに聞き返した。 「停電してんだよ。こう、がんがん雷落ちちゃあ、仕方ねぇだろ」 「停電してんだ…」 その時、再び大きな雷の音がした。暗闇の中で小さく「わっ」という声が上がる。 「・・・おまえ、びびってんの?」 「なっ、違いますよっ!!びっくりしただけです!」 「ふぅん?」 ぱたん、とドアが閉まる音がした。鳥越は暗闇の中で目を凝らす。隣の部屋へ千秋は戻ったのかと思い部屋の中を見るが、まだ目が慣れなくてわからない。足音が聞こえればいいのだが、相変わらず叩きつけるような雨音と、風の鋭い音以外は聞こえてこない。 「千秋さん…?」 不安げに暗闇に問いかけると、突然、暖かなものが顔に触れてきた。 「見つけた」 「!」 息を飲む。 鳥越は頬に触れてきたのが千秋の手とわかった。千秋の手は、鳥越の顔を探るように行き来する。 「ちっ、ちちちちあっ…」 声がうわずる。千秋の手は頬から鳥越の頭に移動すると、ぽんぽん、と頭を軽く叩いた。 「よしよし」 鳥越は押し黙る。 「やっぱ、びびってたんじゃねぇか。脈拍あがってっぞ」 どうしていいのかわからない鳥越の首に、千秋のもう一方の手がぴたりと添えられた。千秋の掌には、鳥越の脈拍が通常とは言い難いほど早く脈打っているのが伝わってくる。 「こっ、これは雷とかのせいじゃねえしっっっ!!!!」 (千秋さんのせいだって!!!) 千秋の行動は、いつもいつも不意打ち過ぎて困る。 本人が他意なくやっているあたり、本当にタチが悪い。 「怖いなら怖いっていやぁ、添い寝くらいしてやんのに」 完全に面白がっているらしく、千秋が暗闇の中でも笑っているのがわかる。 「だから、違うっ……」 ううっ、と鳥越は小さく唸るが、とあることに気がついて千秋に訊く。 「……じゃあ、怖いと言ったら…一緒に寝てくれるんっすか?」 「結局、怖いのかよ」 くくっ、と千秋が笑ったのがわかった。 雷も台風も怖くはない。むしろ雷は綺麗だと思うし、なんてことはない。鳥越は少し不本意だったが肯定することにした。 「……怖い、です」 千秋の笑いが止まった。そして、ぽん、と頭を優しく叩かれる。 「一緒にいてやるよ」 「…ずっと?」 「いいぜ?」 くすり、と千秋は笑う。これは、優しい笑いだとわかる。 「ほんとですか?」 「ほんと、怖がりだな」 「……はい」 鳥越は千秋の手に引かれるように少し頭を前に倒すと、柔らかな髪が額に触れた。両手を伸ばして、千秋の背に手を回す。 もう、外の音は聞こえない。 とくん…とくん… 耳の辺りで千秋の規則正しい心音が聞こえてくる。 (怖いよ…) あなたが、オレの前から消えてしまうのが…… 本当に。 ずっと、いてくれますか? その問いかけを口にすることはできず、鳥越はそっと目を閉じた。 |
※ 謝辞 ※ 祗堂様からいただきました♪ いや〜台風が日本列島をなめるように進んでいた時、祗堂さんと台風ネタで盛り上がり♪ いただいちゃいました!(私が書いたのは祗堂様のサイトに嫁入りしております☆) いわゆる『とりちー』というものです。 可愛いですよね〜。あまりに純朴で〜。 そして、千秋!! 罪な男だ……v あ、わたしが描いた名場面の一コマみたい人います? よろしければ……どうぞ…… |
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