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-- Are you happy? --

 四月一日。

 またの名を四月馬鹿の日とも言う。
「忘れてたんすか……?」
 あんぐりと馬鹿丸出しの顔を晒けだしやがって……。
 悪かったな。どうせ忘れてたさ。け、だけどな何故にオマエにんな顔をされなきゃならない?
 大体、この宿体とは無関係ではないか。それに、
「何でおまえが知ってんだよ?」
 俺はコイツに教えた覚えはない!だいたいコイツの初は俺様が霊体の時だ!コイツは生身の『千秋修平』を知らない。
「――」
 ――違うんっすか?
「……ッ」
 ありありと顔で語るなッ このバカッ 違うなんて一言も言ってないだろが!
「いや、だって――」
 だってもクソもあっか!
「俺、直江さんにだまされたのかな……」
 今日が今日だしな、とガシガシと頭をかきながら目の前の小僧は唸っている。
「……」
 バカヤロウ。
 どいつもこいつもバカばかりだ。
 そんなことで悩むなよ。全く。
「……奢ってやると言ったが前言撤回だ」
 え?と、こちらを振り仰ぐ鳥越。にやりと受け止める俺。
 ゴツリ
「――ッてーェェえ!」
 何すんですか!?という抗議の声を余所に俺は煙草とライターを取り出した。
 カチリと点けた炎を手で包みこむと、よりいっそう淡く明るさを増す。
「鳥越」
 名を呼ばれた本人、俺の薄ら笑いに何か察したようだ。それがまた小気味良い。
 自分でも笑みが深まるのが分かる。
「今日は俺の誕生日なんだろ?なら――」
「千秋さん!」
 悲鳴じみた叫びもまた――……、
「♪」
 ――……最近、なんだか鴉野郎の気持が分かってきたこの俺様だったりする。
「――おまえが奢れ。」
 それが筋ってもんだろ?
 ビシッと決め台詞を言い放ったら後は振り向かない。前進あるのみ! 「ちょっ、待ってくださいよ!千秋さんッ!」
「いんや待ったなし〜」
 ずんずん歩いて行く俺に追いすがる鳥越。
「待ったありでしょ!?」
 にやりと俺の唇は歪んだまま、当分戻りそうもない。
「なしに決まってんだろ〜」
 でも、俺だってそこまで無慈悲じゃないさ。
 この後の展開なんてたかが知れているし、ぎりぎりまで言わないでこの状況を楽しむ!
 そうして――、
「仕方ねえなあ。勘弁してやるよ。その代わりに――」
「わっ」
 俺はヤツの袖口を遠慮なく引っ張ってやれば、バランス崩す。それも『だからどうした』の世界で。
 笑みは凶悪さを増す。そして、
 ゴツリ
「ってーぇエ!」
 二度目の缶袋攻撃を後頭部にヒットさせた。
「まさか、これを俺様に一人公園で飲めなんて言わねえよなあ」
 ヤツの目の前で人指し指一本で袋をもてあそんでやる。
「というわけで――」
「?」
「おまえん家決定な」
 そのほうが気が楽だし最初(はな)からそのつもりだったりする。
「どうせ彼女もいないんだろ?」
「!」
 まるで魚のごとくぱくぱくと……どうやら図星だったらしい。
 俺は笑みと煙を同時に吐き出した。
「……ッ――ち、千秋さんーッ!」
 ちょっとした絶叫。
「か、か、彼女いないのは」
 お、耳まで真っ赤!
「誰のせいだと――」
 うわ、目尻に涙まで……。
「――思ってんすかーぁあ!?」
 ん?俺のせいか?んな他人の恋路なんて昔から俺は邪魔しませんて〜。
「うら、行くぞ。鳥越。他人のせいにすんなんて情けねえぞ〜」
「千秋さんッ!」
「何だ?鳥越」
 人を食った態度はお手の物さ。でも、

 ――分かってる。

 オマエが必死で俺を捜してくれたこと。
 本気で心配してくれてること。

 みんな――分かってる。

「あーあ、今年もこの季節がきやがった」
「千秋さん?」
 俺は立ち止まって夜空を見上げる。都会の空には片手の指で足るほどの星々しか見えないけれど――、
 その裏には――、
「まったく、歳食うのはいつになっても嫌だねえ」
 真の暗闇が訪れれば、数えきれないほどの瞬きがある。――まるで俺達が生きてきた日々のように。いや、それ以上の軌跡を抱えて、それらを抱き隠しながら当然のごとく都会を包んでいる。
「何いきなりジジくさッ――……」
 ゴツンッ
「――ッてぇぇえ!」
「悪ぁーるかったなッ爺臭くて!」
「殴るこたないでしょ!?」
 頭を抱えた腕の隙間からちらりと覗く視線はこれでもかというほど真っ直ぐで――限りなく純粋だ。
 それだけで、俺は――……、
「おまえが悪い!」
「何でーぇぇえ!?」
 木霊する絶叫。
 笑う俺様。
 俺はくっと口許を引き締め、行く未来(みち)を見据えた。

 大丈夫だ。

 過去も未来も見失っちゃいない。
「――……」
 風がそよぐ。
「千秋さん?」
「何だ?鳥越」
 二人の間を優しく通り抜けて行く。
 今も昔も変わらず俺は俺で。
 不思議そうに見上げてくる相手に対して俺の視線は自ずと緩む。
「おら!行くぞ!」
 俺は踵を返した。
(つーか、ここまで来たら今更だろ)

『千秋修平』

 この名は捨てられない。
 俺が俺である限り、

 ――『千秋修平』として、
 ――ま、あそこにもここにもまだまだ手のかかる奴がいるし――、
(しゃーないから、
 生きてやるさ)

 それに――、

  ※  ※  ※

 カランカランー……
「よ、お帰り。マスター」
 やけにわざとらしいらしい言い回しに男は苦笑して応えた。
「ただいま」
 マスターと呼ばれたその二十代後半の青年だ。抱えていた荷物をカウンターに置くと辺りを見回して。
「変わったことは――」
「ないない」
 至って平和で、と答えながらバーテンダーの手は止まらずグラスを拭いている。
「そうか…」
「まったく買い出しなんか俺達に任せればいいのに」
「はは…こればかりは仕方ない」
 性分だよ、と青年は腰にエプロンをさっさと巻き付けだす。――だが、
だしぬけに手が止まった。
「?」
「――これは」
 バーテンダーもその手を休めて青年の見るものへと視線をやれば、レジスターの隣、
 そこには――、

 一本のボトル。

「あ――……」
 そういえば、キャッシャーの店員に、キープ棚に閉まっておいてくれと言われていた。
「まだ開封されてないな」
 青年の手がボトルに伸びる。
「帰り際に、ね。新規のお客さんの」
 その客はやけに人目を引いた客だった。
 二十代半ば、外見の軽いイメージから想像もつかないほど、渋い注文が多くて意外だったが、
「やけに女にモてそうな客だった……」
 事実ゆったりと座高の高い椅子に腰かける男へは始終、黄色い視線が注がれていた。
 モてない男はつらい、といかにもな同僚の態度に青年はくすりと笑んで何気なくボトルにかけられた二枚の札を裏返した。
「!」
 その妙な沈黙にバーテンダーはグラスを拭く手を止めた。
「――……ぁき」
 青年の引き締まった口からポロリと言葉が雫れ落ちて、
「知り合い?」
 その問いに青年は一度何か言おうとしたが、
 押し黙り、
 深く息を吐いた。
「――……分からない」
 だけど、
「そんな――……」
 ――気がする。
「ふーん?」
「すみませーん。注文入りまーす!桜カクテルとー……」
「!」
 二人はばっと声の主へと注意を寄せた。
「……。りょーかい!」
 バーテンダーを務める青年は返事を返して、またも目を瞠る同僚を尻目に用意に取り掛かる。

 ――『桜』……。

「村井」
「ん?」
「今日は何日だ?」
 用意をし始める青年にちらりと視線をやって。聞かれたほうは視線をさ迷わせ、
「四月一日。――エイプリルフール、だな」

 ――四月……一、日。

「――」
「佐々木?」
 納得したのか青年は出し抜けに微笑を浮かべた。
「――何かおまえ、ヘンだぞ」
「そんなことないさ」
 と言いつつも、口端が緩んだままでは説得力がない。納得いかないのは、なにもこのバーテンダーの彼だけではないだろう。
 だが、一旦大きく息を吐き出した青年は、何事もなかっかのたようにボトル棚にその曰くのボトルをしまってしまう。
「……。その態度がヘンなんだよ……」
 まったく、と嘆息しながらホールに向かう同僚からバーテンダーの視線が移された先は――、
「……」

 ――二枚の札が掛けられているボトル。

「なんだかなー」
 よく分からない、お手上げとばかりに肩をすくめて、頭に手をやる同僚の動向を尻目に――……、
 ホールに向かった青年は目を細めて、優しく息を吸い込んだ。
 驚愕の想い。弾け飛んだインスピーレーションは知らない男のシニカルな笑み。
 だけど、何故か――……衝いて出る言葉は――、


「――Happy……birthday――」


 何故そう浮かぶのか。呟いた本人すら判ってはいなかったが――、
 ただ、今日と言う日にこそ、
 青年は目元を緩ませて微笑む。

「――おめでとう。――ち……ぁき」

 心から――……何故か言いたい、と思った。

 青年はもう一度だけ捧げる想いで呟いた。

「……おめでとう」

 ――薄く淡く花びらが舞うように、
 空気が――震える。


『N.Yasuda』
『K.Irobe』

 ――寄り添って存在る二つの名前。




 ――それに……――予感がする。

 あんたはどこかで――、

 ――まだ『生きて』んじゃねーのか?

                   ――fin.

 

-- 初出:携帯メールで日記より 05/3/9〜4/06(改題-偶然-)--

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あとがき
と言うことで……何も言えない……。
本当に今更なんだけど、一応きっちりした形でまとめてみました。
これも息抜きの一環、さ。
というか、こっそり書いていました。
250文字のメールで35通……。
リアルタイムで見てくれた人は本当にお疲れ様でした。
まとめてみると……凄まじく冷や汗ものでしたね。(この量を私は携帯で打ったのか……)
書ききれるか分からず、ブチ切れの内容を楽しんでもらえるとも思わず、こそこそ誰も見やしないとこっそり堂々と送っていました(殴)
ちなみにお気づきかもしれませんが、
これはたまたま4月1日が通り過ぎたので、こういう結果になったのですが……、
暇になったら続き書こうかな(←!?)なんて考えています。

ちなみに原作設定引きずりまくっております(いや、書かなくても分かるから)。で、色部さん……記憶無くして一般人してます。
はっぴーばーすでー 千秋

私にも……春が来ますように……
2005年4月15日  たつみ れい


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