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-- 不夜城 -- 都会の干渉されない雑然さとともに、どこか妖しげな雰囲気を醸す街。 ネオン街は相変わらず不毛なほど明るく、甘ったるく現実の殺伐さを押し隠している。 けれど、まとわりつく視線はどこかいつもの値踏みをされるような睨めまわす視線とは異なり――、 ――殺意? が、感じられた。――それも一つではない。 不意に立ち止まった。 「…………」 となりを歩いていた男も数歩先で立ち止まり、今しがた隣を歩いていた男へと首を傾げてみせる。 「安田」 「……ぃや」 ――何でもない。 と、相手に応じて再び歩き出した。 肩を並べて歩く二人は至って平然に歩を進めているが、この薄汚れた町では一際目立つ存在だった。 一人はきりりとした眉が印象的な決して美形とは言えないが、纏う空気が清廉潔白で男気溢れている。どうにもこの繁華街とは似合わない節があるのが特徴だ。もう一人はと言うと、鋭利な印象の縁なし眼鏡の下に甘いマスク、髪を後ろで軽く束ねた姿は、隣を歩く男とは対照的に遊び人の空気があり、こういう街が好きそうに見える。 けれど、この二人に共通して言えることは、その体内から漲る存在感と意思の強い眼差し。 「なぁ――……気づいているか?」 「…………」 二人は歩みを止めない。 が、問われた男は、何を、だと視線を返してきたが、だしぬけに口端を吊り上げて真正面へ視線を戻す。無論、二人の歩みは止まらない。 「『視線』についてか」 「…………」 「どちらだと思う?」 おまえと俺――。 「さて、お互い心当たりは山ほどあるのではないか? 一概にどちらとも言えんだろうな」 その返答に男は顎を引いてくくっと笑う。この町に不釣り合いな男は怪訝に伺ってみても遊び人風の男からは眼鏡がネオンを反射してそれ以上の感情を表情から読みとれない。 「まったくやんなっちまうよなあ」 「…………」 再び顔を上げた遊び人風の男から笑みが消えることはなかった。そして、二人の歩く速度も変わらない。 「まったく、俺たちじゃなくて――」 ――直江を狙えっつーの。 「まったくだ」 それには隣を歩く男も同意して口端を持ち上げた。 「なぁ……この辺に人気のない場所なんてあったっけか?」 「ここはおまえの領域(テリトリー)だろう」 ――わしは知らん。 そう、この男は九州からわざわざ首都・東京にやって来ているお上りさん。知らなくて当然だったりする。 「だが、そろそろ限界だぞ――奴ら」 「…………」 たしかに感じていた殺意はピリピリと電流のような弾けた視線になりつつある。 きっとこの歩みを止めれば、襲って来かねない。 「仕方ねえな」 ――手分けして始末しますか。 その提案に隣を歩く男の笑みが深まる。意見はどうやら同じであったようだ。 「さて、どちらに殺られるのが、ご所望かねえ」 「まあ、我らに刃向かうのだから、それなりの覚悟はしてもらわんとな」 「まったくだ」 揶揄して嘲る男も真剣な笑みを浮かべる男も、一般人には見えないオーラを徐々に立ち上らせ始める。 信号で立ち止まり、二人は互いに顔を見合わせた。 「んじゃ、行きますか……俺は左に行く」 「では、わしは右だな」 「そっちは公園あるからな」 きりりとした眉はより一層引き締められた。 「なんだ、それは」 「だって、おまえ槍振り回す気満々だろ?」 「……おまえは?」 ――俺は小道具使わねえからね。 「適当に調伏するさ」 「ふん、手に負えそうになかったら。呼べ」 「誰に物言ってやがる。生徒が先生に逆らうもんじゃねえぜ」 へっと口端を上げた男は片目を瞑ってみせると同時に信号は、赤から青へと変わり、 「んじゃ、健闘を祈る」 「ふん、そなたもな」 二人は同時に夜の熱(ほとぼり)に駆けていった。 |
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