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   「世界は俺色に染まる」 〜巡り逢い編〜


 生きようと決めたその日から世界の色は変わった。
 目から鱗が落ちる。
 ありきたりな表現だが、まさしくその通りだと思う。
 眩しくて手をかざす未来(さき)には――……。


 佐々木圭吾は急いでいた。
 なぜなら、馴染みの店から呼び出しを受けたからだ。
 その店は佐々木が昔、働いていた店でもあり、代理だが店長も努めたことがある店である。今も時たまヘルプに入ることもあるが、だからと言って今日のように突然呼び出すことはそう滅多にあることではない。
 佐々木が今、抱えている紙袋の中身はオレンジ等の果物と缶詰で、知る人ぞ知る夜の店御用足しの店から調達してきたものだ。
 混雑も極まったバーでは佐々木の手荷物と佐々木自身を今か今かと心待ちにしているだろう。手伝えなくてもいいから、いくつかの料理の材料を届けてくれと切羽詰まって電話してきたのはつい先程のことだ。よっぽど猫の手も借りたい事態に陥っているに違いないのだろう。
 そんな電話を受けて佐々木は店を放っておけるほど義理と人情に欠けた男でもない。
 そもそも店を辞めた理由だって仕事が嫌いだというわけではない。進学することに決めたからなのである。
 だから今も店と懇意であることに変わりはないのだ。ついついヘルプで入ってしまうのはソンなわけもあるのだ。
「?」
 佐々木は走りはしなかったが、かなりの歩幅で距離を稼ぎ、近道である裏道へ進んだ矢先、違和感を感じて立ち止まった。
(…………。――気のせいか……?)
 人の気配を感じたような気がした。……あまり歓迎しない存在の気配とともに。
 実は佐々木は普通の人には視えないアレが視えてしまうタイプなのだ。
 けれど、気のせいらしい。再び、歩を進めようとした時だった。
「危ないッ」
「!」
 佐々木は全身の毛が逆立つ感覚にゾクリと背を戦慄かせて振り返った。
 紙袋からオレンジが落ちる。
 バサリと翻るコートが視界を奪う。
 そして、やはり嵐は突然やってくるようだ。
 一瞬佐々木が垣間見たのはチッという舌打ちした男の顔。
「――ぅぜえ……んだよ……」
 佐々木の目は大きく見開かれた。
 その男の呟きは佐々木に対してのものではない。けれど、なぜか佐々木の心を抉って――。
 転がるオレンジがゆらりと止まる。
 その隣に置かれた手は青白い光に包まれている――……。
「舐めんなぁぁ……ァぁああ!」
 佐々木を守るように覆い被さっていた男の熱が佐々木から離れていく。風が渦巻き、それでも必死に振り向いてみれば、男の髪から髪止めのゴムが滑り落ちていく。
 なびく髪の一本一本までに白熱のオーラが漲っているのを佐々木は視た。
「――バイ!」
「! ――ッ」
 佐々木は思わず手をかざした。
 世界が一瞬にして白に染まる瞬間が――……訪れる。

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