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続く未来

side a


 打ち寄せる波。
 座る足下にじわりと海水がやってきた。その境界を眺めると、自ずと手と足が嫌でも目に入る。手と足は最も視野に映る身体の一部だ。
 もう、あの頃の姿形の面影はない。
 
 ……――何一つないのだ。
 
 千秋は水平線へと視線をやった。
 
 彼はもういない。本当に塵一つ残さず彼は消えた。
 
 あの……
 海の彼方にある補陀落に辿り着くこともなく、
 
 彼は、消滅えてしまった。
 
 千秋は近づいてきた気配に気付いても、それを無視して微動だにしなかった。
 
 彼が……、
 何かあるとやってきていた浜辺。切なく見つめていた海。
 彼はもう……この海を眺めることもない。
 
 涙が、……勝手に頬を伝ってくる。
 
「長秀……」
 
 千秋は膝を抱え込み、顔を埋めた。この涙を見られたくはないと思った。
 呼びかけた色部も視線を彼から外した。
 
 近くにいるだけで伝わる想いとはあるものだ。
 
 落ちる雫がじわりと地面に広がる。
 
 何故だろう……? 泣くつもりなんてなかった。今だって別にそういうわけでもない。この宿体の涙腺が壊れているのだろうか……?
 
 膝に顔を押しつけたまま、千秋は瞳だけを動かして海を睨んだ。涙は相変わらず止まる気配がない。
 
「…………」
 
 でも、どうやら涙腺が壊れているようではないらしい。ほら、こんなにも胸が痛い。少しでも気を抜くと嗚咽が勝手に口から飛び出しそうだ。このどうにもならない衝動を抱えてどうしたら良いのか……?
 
 千秋はより一層俯いて嗤った。
 
 この感情を表現す言葉を知らない。
 知らないが……、
 千秋は鼻をすすり、瞼を降ろした。
 
 ――知っている。
 
 アイツが……、
 オマエが――、
 
 ――いない。
 
 景虎がもう、――いないッ。

side bに続く


 

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