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仰木家シリーズ1 著・なぎ(蜃気楼の館)
梅雨が明け、サンサンと照りつける太陽と格闘する季節。
昨日終業式が終わり、今日から待ちに待った夏休みである。
長野県は松本市にある仰木一家が暮らす団地。
窓は開けっ放されて、扇風機が室内の温い空気を回している。
居間の畳の上に寝転がっているのは仰木高耶(16歳)。
誕生日を三日後に控えた7月20日。
寒いときならたくさん着込めば寒さはしのげる。
しかし暑いときにはいくら脱いでも暑いものは暑い。
着ていたtシャツはとっくに脱ぎ捨てていた。
綿のハーフパンツから伸びる白くて長い足。
身長の割にはウエイトはなく、かといって華奢ではない。
巷では「海の日」と言うことで海水浴に出かける人間も多いだろう。
ヒマはあれど、金はなし。
夏休み明けにはテストが行われる宿題プリントをする気もなくゴロゴロしている。
宿題は譲にでも見せてもらえばいいか、と高耶はテレビのリモコンに手を伸ばした。
スイッチを入れると高校野球の県予選が行われている。
解説者が舌を噛みそうな勢いで試合の実況中継をやっていた。
(暑いのに、ご苦労なこった)
ほんの数年前までは少年サッカーチームに入っていた。
炎天下で試合をしていたことなどすっかり忘れている高耶である。
残念ながら高耶の通っている城北高校は初戦で破れていた。
ピッチャーが投げる。
バッターが綺麗なスイングでバットを振る。
ボールの真芯を捕らえたバットが振りぬかれ、白いボールは外野の頭を越えた。
ホームラン。
九回裏の逆転サヨナラホームランだ。
応援席の生徒たちが抱き合って喜んでいる姿がブラウン管に映る。
この試合のハイライトシーンをいくつか放映した後、勝利校の校歌が流れ始めた。
「メシでも作るか」
三つ年下の妹の美弥は真面目に部屋で宿題をしている。
午後からテニス部の練習があると言っていた。
冷蔵庫の中をのぞいてから昼食のメニューを思案する。
「・・・」
ロクなものが入っていない。
暑いから出歩きたくないのだが、腹が減っては戦が出来ない。
高耶は美弥の部屋のフスマをポンポンと叩いた。
「おい、美弥。入るぞ」
「いいよ、どーぞ」
妹とは言え、中学二年生ともなれば立派なお年頃。
何気に気を使っている高耶であった。
「真面目に宿題してんだな。感心、感心」
「お兄ちゃんだって宿題あんでしょ?成田さんに見せてもらってばっかりじゃ、自分の身につかないよ」
「生意気言うな、バカ」
唇を尖らせた高耶だったが目は笑っている。
「昼飯、何食いたい?買い物行ってくるけど」
「あ、だったら美弥が行ってきてあげるよ。欲しいcdあるから」
「昼から部活あるんだろ?そん時買えばいいじゃんか」
「部活ねぇ、顧問の先生の都合でお休みになっちゃったの」
「ふーん、そっか。んじゃ、一緒に買い物行ってくるか?」
「えぇ〜!?お兄ちゃんのバイク、運転乱暴なんだもん。怖いよぉ」
「ばか者。お兄ちゃんは安全運転しかしないのだ」
「嘘ばっかりっ。この前乗せてもらったとき、ジェットコースター並に怖かったもんっ!!」
ジェットコースターのがまだマシだった、と美弥が付け加える。
運転が乱暴なわけではないのだが、少々スピードを出しすぎる高耶の運転。
美弥をびびらせるには十分だったようだ。
「へいへい。それじゃ歩いて行くか」
「それなら一緒に行ってあげてもいいよ」
年を重ねるにつれて生意気な口をきくようになった妹。
それでも目に入れても痛くないほど可愛い妹。
「出かける前に・・・その服を着替えなさい」
「え?なんでぇ?これでいいじゃん」
「そんな下着みたいなカッコで出歩く気か?ダメだ、お兄ちゃんは許しません」
「やだっ!暑いもんっ!!」
ちなみに美弥の今日の服装はオリーブグリーンのキャミソールにデニム地のミニスカート。
首元にビーズのフリンジがぶら下がっている。
今時普通の格好だと思うのだが、高耶はあまりお気に召さないらしい。
目のやり場に困る、と言うのが本音なのだけど、大事な妹に男どもの視線が集まるのも気に食わない。
「とにかく、着替えなさいっ!上着羽織るだけでもいいからっ!!」
「い〜やっ!ぜぇ〜ったいにイ・ヤっ!!」
仰木兄妹、兄妹喧嘩勃発。
お互い一歩も退こうとしない状況を打ち破るように玄関のチャイムが鳴った。
「誰か来た」
美弥は高耶の横をすり抜けて玄関に向かう。
「こら、美弥っ!そんな格好で出て行くなぁっ!!」
慌てて後を追う高耶だったが、玄関先で美弥とにこやかに話をしている青年を見つけて足が止まる。
絶句して立ち尽くす高耶を見つめ直江はさらに表情を和らげた。
「何、ぼーっとしてんのよ、お兄ちゃん。直江さんが折角来てくれたのに」
「こんにちわ、高耶さん」
「こんにちわって・・・おまえ、一体何しに来たんだよ」
突然の来訪に喜ぶよりも先に驚きの方が先に立つ。
「何しにって・・・もちろん、あなたに逢いに来たんですよ」
照れもせずにそんな言葉を言ってのける直江。
近くには美弥も居るのに、と顔を真っ赤に染めて直江の頬をつねり上げる。
「おまえはぁぁぁぁ!どの口がんなことをほざくんだ、こらぁっ!!」
「きゃぁぁぁ、お兄ちゃん、落ち着いてぇ〜!!」
思わず美弥が仲裁に入る。
頬をつねられた直江は直江で、高耶に逢えたことが嬉しかったのか気にせず笑っていた。
「こんなトコで立ち話もなんですから、あがってください。散らかってますけど」
まるで母親のような口調で直江に言う美弥。
では遠慮なく、と直江は丁寧に靴を揃えて部屋に入った。
居間に通して座布団を進め、美弥は冷たい麦茶を入れるために台所へ向かう。
高耶は直江を軽く睨みつける。
「おまえなぁ、美弥の前であんまり変なコト言うなよな」
「変なコトって、どんなコトですか?」
「しらばっくれるな。おまえがいっつも言ってる言葉だよ」
「例えばどんな?」
「ンなコト、オレの口から言えるかっ!!」
ちゃぶ台をバンッと叩いて高耶が怒鳴る。
軽く肩を竦めて直江が笑った。
人一倍照れ屋な高耶。
二人きりのときにしていることを考えたらそんなに照れることもないのだが。
未だに情事の最中の睦言は苦手らしい。
耳まで真っ赤にして顔を背けてしまうのだ。
そんな高耶の反応が可愛くて、ついつい「そう言う言葉」を口にしてしまう直江であった。
「そうですねぇ。例えば「あなたを愛している」とか」
突然真顔でそう言われてドギマギする。
おまけにやんわりと手を握りこまれて心拍数は一気に跳ね上がる。
鳶色の瞳に見つめられて高耶は手を振り解くことができない。
「高耶さん」
お約束通り直江の顔が近付いてくる。
反射的に目を閉じようとした瞬間、台所の方から足音が聞こえた。
「暑かったでしょ?お茶でも飲んでください」
コップに氷と麦茶を注いで美弥がトレイを運んできた。
驚いて直江から離れて誤魔化すように笑う高耶。
美弥は別に気にした様子もなく、
「これからお昼ご飯の買い物行って来ますから。ゆっくりしてって下さいね、直江さん」
「だったらオレも・・・」
「だーめ。お兄ちゃんは直江さんのお相手しててね。せっかく遠くから来てくれたんだから」
にっこりと笑う顔の裏で「ついてきたら怒るからね」と言外に語っている。
こう言うときの美弥には逆らわないほうが得策だ。
大人しく高耶は直江と留守番をすることにした。
ドアを閉める音、階段を降りていく音。
「相変わらず可愛いですね、美弥さんは」
「手ぇ出したら、殺すぞ」
「私の守備範囲は十八からです。お子様は問題外ですよ」
微笑を浮べて高耶の手を取り自分の方へ引き寄せる。
「ただし、その適用は女性に限りですけどね」
バランスを崩した高耶の体を抱きしめてキスをする。
「ふ・・・ぅん・・・」
逢えない時間を埋めるような長い口付け。
潤んだ瞳で直江を見上げる高耶。
そのまま畳の上に押し倒し、露になっている胸に舌を這わせた。
「こら、直江っ!」
「あなたが悪いんですよ。そんな刺激的な格好でお出迎えしてくださるから」
「何、言って・・・っ」
思えば高耶は上半身裸である。
抵抗しようとする高耶の手首を頭の上で拘束し、空いた手で下半身に手を伸ばす。
「やめ・・・や・・・。直江ぇ・・・」
直江の執拗な愛撫にそろそろ限界に近付いてきた頃。
真っ白になりかけた高耶の思考を現実に引き戻してくれた能天気な声。
「お財布忘れちゃったぁ〜」
買い物に行ったはずの美弥が息せき切って居間に飛び込んできた。
一瞬時間が止まった。
高耶は直江に押し倒されている。
当然のことながら直江の手は高耶の下肢に伸びている。
何をしようとしていたのかは一目瞭然。
「うあぁぁぁぁぁぁぁ〜!!」
声にならない叫びをあげる高耶。
しかし美弥だけは平然とした表情で茶だんすの引出しを開けて財布を取り出す。
居間を出て行くときに振り返りにっこりと笑って。
「美弥、一番遠くのスーパー行ってくるから。ゆっくり続きやっててね〜」
再びドアを閉める音。
そして階段を降りていく音。
硬直している高耶の胸に直江が再び舌を這わせた。
現実に引き戻されて高耶がじたばたと暴れる。
「美弥さんのご許可もいただいたことですし、一発頑張りましょうか」
「何考えてんだ、この色情駄犬っ!!」
この日仰木家の居間では「最高幸せ温度」が世界一を記録したとかしないとか(笑)
言葉どおり一番遠くのスーパーまで自転車を走らせる。
にこにこと笑いながら一人呟いてみた。
「直江さんって、顔は良いし背は高いし。お金持ちだし結構イケてるのに・・・実はゲイなのよねぇ〜♪」
高耶の心配をよそに、嬉しそうにいけない妄想に思いを馳せる美弥。
日本の暑い夏はまだまだ終わりそうにない・・・。
=END= [パーティーが始まる]へ続く