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「世界は俺色に染まる」 「というわけで、私と千秋の間にはなーんにもやましいことはありませんでした!」 私は、敢・え・て・やましい云々のところを強調して言って、それからすぐにチキンソテーを私は口の中に放り込んだ。 勿論、横目でちらりと見れば、納得いかないという学友、片岡千尋がこちらを見ている。 「…………」 はぁぁあ? 何それ……と顔に書いてある、が。 その視線を無視して私は黙々と頬張った。 「あんた……バカじゃないの」 どうせばーかでーすよーだ、と節をつけて言いたくなるほど、千尋への報告は恥ずかしかったのに。 「あんた……」 千尋はひーふーみーと両指を投入して何かを数えている。 「十七? 十八?」 正確には冬期休みは二十日だ。 「そのほとんどでしょ?」 ええ。十七日間、ふたりっきりでしたとも……! だけど……、だけど、だけど! ……何もなかったのだから仕方ないではないか。 私は千尋を恨めしく見上げた。 あんたねー……と言った千尋の口は他にも何か言いたげであったが、一応閉じた。 それを尻目に私はほっと息を抜いた。 目を落とした先のプレートには、てかりと光っている鶏肉の油の下にタレが沈んでいる。それを掻き混ぜた。 「…………」 混ざりそうで混ざることはなく元に戻る。 まるで私と居候のようだと思えてより一層ぐちゃぐちゃと掻き混ぜた。 「……どうにかならないの?」 「…………」 私は目線だけを上げた。 どうにかならないのかと言われても。 ……きっと私と彼は、それ以前の問題なのだ。 だけど。 「たぶん、これで」 ――いいんだ、と思う。 「千秋さんフリーなんでしょ?」 「そうねえ」 「好きなんでしょう?」 「嫌いじゃないよ」 むしろ好きだ。でも。 「つらくない? 大丈夫なの?」 同じ屋根の下、好きな人が、それも振られたも同然の相手と一緒にいて、辛くないわけがない。だけど、不思議なことにそれほど苦でもないのだ。それどころか――。 これも惚れた弱みか、 「ま、仕方ないでしょ」 と言って私は微笑った。 すると、そんな私の態度に千尋もふぅと息を抜き、 「……あんたも相当の」 ――お人好しよ。 本当にその通りだと自分も思う。だから、言い返す言葉もなし、私は肩を竦めてみせるぐらいしかできない。 始まる前に終わった恋なのに、彼の中には大切な人がいると知っても、私はこんなにもやはり彼が。 「それでいいの?」 「良いも悪いも私たちは『巧く』やっているって言ったのは千尋でしょう」 「そうだけど……」 「私たちは『巧く』やっている」 そう、私と彼は『巧く』やっている。 確かに私は彼が好きだ。だから、恋人として彼に夢見るし、そうであって欲しいとも、やはり思う。 けど、その答えを急ぐべきことだろうか。 あの日、あのクリスマス・イブの夜の告白。彼の涙。彼の想い。 始まる前に終わったと思わせるほどの強い想いと意思に――……私は、 どうすることもできない歯痒さと、どうしても諦められない想いに――……私は、 「今はこれで、十分」 と、思えてしまった。 妥協なのかもしれない。それ以外のナニモノでもないのかもしれない。だけど、それが、兄妹のような優しい関係が――……私にとっての、最大の譲歩だと思うのだから仕方ない。 「なるようにしかならないよ」 たぶん、きっと――そう。 私の想いも、彼自身の想いも、 停滞した大気はいつか動きだす。 それは、きっと――、 ――きっと、彼、千秋次第、だ。 強風の吹き荒ぶ青空の下、ここ学食のテラスは暖かい。 そして、いつも以上に学生が集まるのは、後期テストのためで。他人など気にしている余裕はない。 「ま、こんなもんでしょ」 今は、それでいい――と思う。 ――end. -- 書き下ろし 06/1/4 -- |
あとがき 千秋&和田南都編、裏バージョンでした。 ええ、本編千秋視点では書けない南都の感情にスポットを……。 感情が矛盾してなければいいんですが……私の文章力ではこれが限界です! 景虎様の真実を見抜く目って女の子が持つ浮気を見抜く目と良く似てますよねえ。 うーん、案外女の子はああいう強い眼を持っている子が多いと思ふ。 ということで、迷走編は終了です。 お付き合いいただきありがとうございました。第三話でお会いしましょう。 2006年1月4日 たつみ れい |
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