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「世界は俺色に染まる」 
〜迷走編〜


「あああ!」
 なんで俺がッと吠えれば、すかさず、すぱこーんと軽い打撃を後頭部に受けて俺は恨めしげに振り返った。
「つべこべ言わず、さっさと着替える!」
 背後から俺の頭をはっ叩いたのは、この寺の住職の一人娘――和田南都だ。
「新年まで一時間切ってんだから!」
「…………」
 と言いつつ、叩くのに使ったであろうカイロを俺の背へとべたべたと貼り、
「今日は寝れないからね! しっかり頼むわよ! 代理住職!」
 ドンと俺の背を押した。
 馬鹿力め……! と恨めしく振り返ようにも、今度は降ってきた袈裟によって視界を奪れて……。
 仕方なく! 俺は、渋々! 袈裟を手に取り、ひっ被った。
「………」
 あの日。クリスマス・イヴのあの夜――。
 家に帰りついてみれば……。
 玄関のシルエットに仁王立ちした人形(ひとがた)があった。
 玄関をガラガラと開けてみれば――案の定だ。
 ……青筋立てた南都の父、この寺の住職こと栄明が立っていた。
 いや、まあ、やましいことなど俺に何一つない。当然だ。
 南都とは買い物に出て夕食をとり、少し長引いたがクリスマス・イルミネーションを見てきただけなのだから。
 だからといって、朝帰りとまではいかなくとも、深夜零時を過ぎて帰れば――……。
 俺と南都は居間に促されて、栄明の前に二人並んで正座させられた。
 お前達分かってんだろうな、という視線に俺も南都も明後日の方向を向いている。言い訳するつもりはないが、反省するつもりもない俺たちに先に折れたのはやはり、栄明のほうであった。
「千秋くん、南都。よく聞きなさい」
「…………」
「――実は、……明日から高野に行くことになった」
 俺も南都もふーんぐらいな感想だった。
「で、節分まで帰れない」
 俺はへーと思った程度だが、
「…………」
 ガタッと膝立ちのうえ、机が揺れた。
「――!?!!」
 聞き流せなかったのは、
「正月どーすんのよ!?」
 南都だった。
 俺はというと、まだこの時点で危機感はなかった。
「大晦日は!? 除夜の鐘突きは!? 初祈願は!? 檀家の接待は!? 修正会は!?」
 よくも口が回るものだとまくしたてる南都を横目に俺は欠伸を噛み殺した。
「……。千秋くんに、任せる」
 …………。
 ん?
「…………」
 は?
 俺と南都は顔を見合わせた。突然話を振られた俺もまくしたてていた南都も寝耳に水で……。

 はぁぁァアア!?

「馬鹿かッ、お前は!?」
「何考えてるのよ!?」
「俺は坊主じゃねーぞ!」
「そうよ! 何言いだしてんのよ! 無理よ!」
 猛然と俺と南都は目の前の馬鹿男に食い下がったが、どこ吹く風だ。
「千秋くんならできる! 心配ない!」
「心配ないじゃない! そういう問題じゃない!」
「そうだ。そういう問題じゃない! 第一こういう場合は代わりの僧が派遣されるってもんじゃねーのか!?」
「それはできない」
「なんでよ!?」
「なんでだよ!?」
 栄明の言い分に俺たちの疑問はハモられた。
「人手が足りなくて呼び出しをくらったんだ。代理を寄越せなんて言えないだろう」
 それに、と嘆息混じりに言って、
「高野から派遣されてきて困るのは千秋くんだろう?」
 南都がどういう意味よ!? と騒ぎ立てている横で俺は詰まった。
 確かに俺は高野山や比叡山で暴れてはいない。が、高野山では――……。
 散々、大将と旦那が暴れているし、裏四国まで成し遂げてしまっている。やった本人でなくとも同じ結縁者となれば……、まして換生者ともなれば――。
「――あんた、何者んだよ……?」
 最初から何かと怪しかったが、この時、初めて俺はその疑問を口にした。
 にこにこ微笑っているが、コイツは――。
「それはこっちの台詞よーッ!」
「!」
 思わぬところから声が上がり、そのうえ襟首を掴まれ、
「な、南都ぅ!?」
「前々から怪しいとは思ってたのよ!」
「く、苦しい……」
「さあ、白状しなさーいー!」
 し、死ぬと思うほど、俺は揺さ振られ。
 ……てんやわんやで大晦日、……で、ある。
 勿論、現在、栄明は高野山。ここに残るのは俺と南都だけ。
(……高野の高僧だなんて、聞いてねーぞ……!)
 だから、こうして除夜の鐘突きのため俺は準備している。
 ――読経は大丈夫。合格点だ。
 なーにが合格点だ。なーにがッ。
 ――あとは護摩さえ焚ければ……。
 俺は景虎や直江とは違うっつーの!!
 本当! 無理を押しつけやがる……と悪態をついてみても。
 結局俺はこうして――ここに。
「何? 南都」
 着物を整え、息を抜くとちょうど下から覗く目線とかち合った。
「いやー、似合わないなぁと思って……」
「………ッ」
 まじまじ眺めて言うな! 俺だって着たくて着てんじゃねえ!
 その人の悪い笑みがッ非ッ常ーに腹が立つ!
「あわわわ。待った! 待った! 脱がない。脱がない!」
「髪まで切ったんだぞ……!」
「うん。益々良い男になった!」
 笑いながら言われても、
「説得力ねーよ!」
「まあ、そう言わず。あんただけが頼りなんだから!」
「だったら、もっと丁重に扱え」
「なっあーに偉そうに! 居候のくせに!!」
 こんな会話は日常茶飯事だ。
「働かざるもの食うべからず!」
 さ、行くよと言って彼女は携帯ラジオを片手に俺を誘う。
「おまえこそ、数かぞえ間違えんなよ!」
「誰に言ってんのよ」
 あと少しで年が変わる。
「あんたこそ、心して百八つ突きなさいよ! 煩悩だらけなんなだから」
「どういう意味だよ……」
「そのまんまに決まってんじゃない」
 彼女はくるりと振り返った。
「ま、いい人生のリハビリには、もってこいじゃない?」
 ああ、的を射ているようでそうでないようで。
 俺は南都の頭を掴み、前を向かせた。
「バカ。大きなお世話だ」
 俺の口元には静かな笑みが分からない程度に。
 外に出れば、澄んだ空気に雲一つない空。
 俺はこうしてここに存在る。
 今はそれで――……十分、だ。
「南都。しっかり伝えろよ」
 新年になる瞬間を。
 新たな始まりに、
 今度は俺自身の幸福せを、

 ――考えよう。


                   ――end.

 

-- 初出:携帯メールで日記より 05/12/19〜12/31 加筆修正 --

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あとがき
千秋&和田南都編でした。
独自の世界もいいところです(爆)
言い訳ですが、本当に一人称というのは、ドツボのはまります。
はまりすぎて、千秋シーンは書くのに自分が回っちゃいました。
単純そうで千秋って複雑だとつくづく思いました。
信念を持てる人間ってやはりどこか脆いところがあると思います。
お粗末!!


2006年1月4日  たつみ れい




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