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「世界は俺色に染まる」 「で、どうしてこれなの……?」 「ははは。まぁいいじゃないか」 反発するよりも前に差し出された徳利の前に俺は猪口を思わず差し出していた。 まぁ――……、 「……いいけどよぉ」 注がれれば、呑む。それはもう俺にとって自然なことであった。 それが美味い酒ならなお断る理由はない。 「あんたも変わり者だよねぇ」 こんな見ず知らずの人物を屋敷に招き入れるのだから。 「別にそんなことはないだろう」 「いいや。変わり者だね」 「そうか?」 「その証拠に何も訊かない」 そう。名前も職業も何故あの場にいたのかも、俺に対する何もかもこの住職は訊きはしない。 「それにこういう場に酒はねえだろう」 「いいじゃないか。好きなんだから」 「……生臭坊主」 「いやなら、茶にするが?」 その気もないくせに平気で言いやがる。食えない奴だという予感は確信に変わるのに時間はかからなかった。 「……これでいいよ」 「なら、黙って呑め」 「…………」 俺は静かにお猪口を傾けた。 「それに無料で泊めてやろうとしてるんだからな」 俺は片眉を跳ね上げて、……蒸せた。 何してるんだ? と住職の顔は言っている。が、俺の反応は当然だろう。 「……あんたバカか……?」 「本気だ」 「…………」 顔は笑っているが、相手の眼は笑っていない。 「見ず知らずのどこのどいつかも分からない輩を――」 泊めるというのか? 「ああ」 「本気かよ……」 「本気だと言ってるだろう?」 「信じられるかよ……」 一気に酔いが醒めるというものだ。 まあ、確かにと何食わぬ表情で徳利を傾けるのだからやはり食えない。 俺は注意深く相手を見た。そう簡単に人を信じられないというのは実に虚しいものだが、そうせざるを得ない経験を俺はしてきていた。 「そんなに警戒するな。『人助け』だよ」 「……『人助け』?」 「ああ」 俺は他人に助けられる覚えはない。そう言われる所以もない。 「泣いてる迷子を放っておけないだろう」 俺は眉をひそめた。 「なんだ。気が付いていないのか?」 まったくこりゃ参ったと住職は豪快に笑い出した。 「俺は迷子でもないし、泣いてもいない」 「ふうん」 「だから、助けられる謂われはない」 「じゃあ、何故仏様に会いに来た?」 「!」 ああ……そうだ。俺は下唇を噛み締めた。 何故って――……。 「まあ、答えを急ぐものではないさ」 「…………」 「いたいだけいればいい。それに――」 ――仏様の眷属さんを無訝にはできないからなあ。 「! ……――あんた」 「ま、そういうことだ。朝のお勤めとコレに付き合ってくれるなら――」 住職は徳利を掲げてにぃと笑ってみせて、 「三食昼寝つき。そう悪い条件じゃないだろう?」 この台詞……。 俺はなんとも言えず、口を閉じた。 これでも永いこと生きている。世の中には、……こういう人物も、いる、ことは知っているが。 「……あんた何者だよ」 「しがない住職さ」 「んなわきゃねぇだろうが」 今度、お猪口に酒を注ぐのは俺の番だった。 「売り渡すような真似されるのはゴメンだぜ」 「するなら、もうやってる」 確かにその通りである。 相手は余裕シャクシャクで俺の酌を受けて飲み干した。 (ああ、やはりこの人物――) 予感的中といったところだろう。 「ああ、けど娘に手を出したら突き出すからな」 「娘いるのか? だったらあんたは本当の変わり者だよ。うら若き女と男を一つ屋根の下に住まわせるんだから」 「二人じゃない。俺もいる」 俺はぷっと吹き出してしまった。 だって、そうだろう? それはまさしく父親の顔だ。本当に心配している。なのにふんぞり返っているのだ。 (止めときゃいいのに) 「何がおかしい……?」 「いや、別に」 「親バカだと言いたいんだろう……?」 住職の目は俺を捉えて据わっていた。 この住職が親バカの何が悪い! と続けてくるのは予想もできたし、その会話に乗りたい自分に気が付いてしまえば、自然と口許が緩んだ。 「娘さん。あんたに似てないことを祈ってるよ」 |
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