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「世界は俺色に染まる」 「で、どうなのよ?」 「……どうなのよってなにが?」 「こらこら。とぼけんじゃないよ」 「……」 「あんたんところの居候さん」 で? で? と顔に書いてある友人を前にして、南都は溜め息を吐いた。 「べつに……」 南都は安いが美味い学食のチキンソテーを頬張った。 「あんたねー……。あれだけ格好イイ人を前にしてその反応はどうかと思うよ?」 と、言われても。 彼女は見ていない。呑んだくれている奴の姿を。親父みたいにぷはぁあと日本酒を呑む奴の姿を。大の字になって腹をぽんぽんしながら寝る奴の姿を。 一緒に過ごしていれば、見なくてもいい姿を見てしまうものなのだ。どんなに見てくれが良くても――。 「千尋は……」 南都は一旦箸を置いて湯飲みを手にした。 「あれのどこがいいのよ?」 南都の親友、片岡千尋は好奇心旺盛に南都の家の居候を見に来たのだ。 「え! だってあの笑顔〜」 千尋の周りにハートがぱっと散った。 「…………」 「たまんないわ〜。それにあの予想を裏切らない美声!」 いっそう私のことなど気にせず告ってしまえ、と思うほど千尋は冷めていた。 それが伝わったのだろうか。 「あんたね……」 茶の湯に移していた視線を上げてみれば、千尋の撫然とした顔が待っていた。 「……何?」 「……良い男ってそう転がってるもんじゃないわよ」 南都はずずっと茶をすすった。確かにそれはその通りであると南都も思うが、果たして――。 「――……素性も知れない男と付き合える?」 「それはあんたのお父さんのお墨付きでしょう」 「……」 あれはお墨付きと言っていいものやら……。単に酒呑み仲間なら誰でも良かったような……。ぱっと南都の頭に繰り広げられたのは日毎の酒宴。 「佐々木さんは良くて今回はダメなの?」 「それは――」 「佐々木さんだって素性知れないじゃん」 「……一緒にしないでよ。元から記憶のないのと隠してるのとじゃ大違いよ!」 そうだ。そうなのだ。南都が千秋を信用できないのはひとえにそこにあるのだろう。 訳ありなのはなんとなく分かるが、それでも――。 「親父なんて『知らないが、悪い人間じゃない』の一点張りよ!」 それでは納得がいかない……! 仮にも家族同様の生活をするのだから。なにも知らず普通に善意で接せられるほど南都の懐は深くない。 「境内に寝てたから、連れ込んだんだっけ?」 「挙げ句、酒盛とお勤めを手伝えば、三食昼寝付き! なんてふざけすぎだっつーのッ」 「あはは! 南都の父親らしい!」 「笑い事じゃないわよ……」 「でも、南都が働かざる者食うべからず! とか言ったら、ちゃんといろいろと手伝ってくれてるんでしょ?」 「それは……」 「いいじゃない? 案外巧くやってんじゃん?」 「…………」 押し黙る南都とは対照的に千尋はからからと笑った。 結局のところ南都が相手とどのように相対して良いか分からず困惑しているだけで、相手を嫌いなわけではないのだ。その証拠にこの一週間南都の愚痴の行き着く先は父親に対してであり、居候への愚痴は減る一方である。まあ、本人は無意識のようだが。 「私も彼氏さえいなけりゃアプローチするのになあ」 「しちゃえばいいのに」 「何言ってんの」 「…………」 「そんな顔して」 さっぱりとした言葉と裏腹に恨めしい上目遣いで千尋を見上げてくる南都に千尋は破願した。 「どんな顔よ?」 「ま、嫌いじゃないなら、次の恋初めてもいいんじゃなーい?」 「千尋」 「さ、早く食べて次の授業行こうか!」 千尋は気難しい親友の、きつい視線もなんのそのでソテーを頬張ってみせた。 |
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