home(フレームなし)>創作場>二次創作−小説>世界は俺色に染まる>迷走編
「世界は俺色に染まる」 「きれい」 そう呟いて巨大ツリーを見上げる彼女の脇に俺は立った。 巨大ショッピングセンターの広場に相応しく堂々と立つモミの木は、金や銀、ラメ光りする赤や青の玉が所狭しとちりばめられて、金色の天使達が舞う。その合間合間を縫って電球が点滅していれば、人々が見惚れる要素は十分だ。 「――千秋は」 上向く彼女が呟いた。その響きにはいつもの俺に向ける刺々しさはない。 「千秋は、好き?」 それどころか、向けられる眼差しは挑戦的なうえに透明で。 「――――……」 こういう眼を俺は知っていると思った。と、同時にその真実を見抜く眼に硬直してしまった。 ――千秋。 脳裏を掠める面影。 思い出そうとしさえすれば、今尚、褪せることなく。 「こういうの」 強い視線が俺から離れる。その視線が向かう先を俺は追った。 巨大なツリー。 彼女がきれいだと言ったそれは当たり前だが、俺の目の前に変わらず存在して輝いている。あたかも瞬く光は見る人各々の細やかな幸せのように。 ――願いのように。 瞬いている。 俺はそれを――、 「嫌いじゃねーな」 一年に一度、この日のために用意された木は今日だけに意味があり、明日にはなんの意味もなくなってしまう。 けれど、それでも。 今日という日に思い思いにこの木を見上げて、思い思いの倖せがここに存在る。 俺はそれを嫌いじゃない。寧ろ――。 「……――そう」 出し抜けに相槌を打たれて、視線を落とした。 「南都?」 彼女は軽く唇を噛み、俯いている。そして、名を呼べばキッと睨まれてしまった。 先程まで機嫌が良かったはずなのに一転して悪くなってしまったようだ。 同居しはじめて、三週間。彼女が気難しいことは理解した。自分が歓迎されていないことも重々承知の上、それでも本気で嫌われてはいないと確信を持てたのはつい先頃。 じっと彼女はツリーを見ている。そして、おもむろに一歩を踏み出した。俺もその後に続く。 「…………」 振り返る気配のない彼女が俺に抱く想いと憤りに気が付けるほど今の俺には余裕がなかった。 きれいでしょ? と彼女は得意気に笑った。 今度は独り言ではなく、俺に向けて。そう笑ってみせた。 彼女が俺に見せたかったモノは、夜闇の中、彼女の背後で万人に等しく煌めいていた。 けれど、俺には。 それよりも――。 てっきり俺は家路についたのだと思っていた。 電車に揺られ、最寄りの駅に着けば、バスに乗り継いだ。それはいたって平々凡々とした棲み家たる寺までの経路で。唯一、違っていたのは降りた停留所がいつもより二つほど前だったことだ。 「…………」 俺はあんぐりと口を開けて見てしまった。 「――ああ、こりゃ」 すげえな。 「すごいでしょう」 すごいけど、すごいにはすごいが、 「おい。南都……これって」 連れて来られた場所はよくある普通の公園である。 その中心には――。 「ふふん。なかなかの穴場なんだよね」 電球のコードに絡めとられた木は。 「……これって」 「銀杏の木よ」 「――すごいコラボ、だな」 「ま、こんなもんでしょ」 くすくすと喉のあたりで笑っている南都がいた。 こんな、モノか……。 こんなモノなのか。 「そうよ。こんなものよ」 太い幹にもみの木よりもみの木らしい枝ぶり。ショッピングセンターにあったそれよりも、当たり前だが大きく、地に根を張っている。 「さすが日本人って感じで私はこっちのが好き」 クリスマスと託けてそれらしきものなら、何でも飾り立ててしまう日本人という種はいい加減だ。 「信仰なんてあったもんじゃねーな」 「それがいいんじゃない」 悪戯心と遊び心。 「楽しければいいのよ」 その最たる犠牲者を俺は見たような気がした。 「クリスマスなんてそんなものよ」 この木には悪いけどね、と南都は舌を出してみせた。 「――でも、千秋がこの木になる必要はないよ」 |
home(フレームなし)>創作場>二次創作−小説>世界は俺色に染まる>迷走編