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仰木家シリーズ5 著・なぎ様(蜃気楼の館)
『eternal love〜子供の本気〜』
「高耶さん?」
ドアを開けて部屋に入るが返事はない。
リビングのテーブルに突っ伏して眠っている高耶の下には参考書とレポート用紙。
グラスに残っていた氷も溶けてしまっている。
日々の疲れとクーラーの冷気が心地よかったのだろう。
ぐっすりと眠り込んでいる高耶に直江は苦笑した。
高耶が父親とケンカして家を飛び出してから十日目の八月三日。
予備校の夏期講座が始まって三日が過ぎた。
飛び出した初日、高耶をこのマンションに降ろしてから直江は一旦宇都宮にある自宅に姪のあきらを送り届けてから東京のマンションへと引き返した。
高耶には内緒で妹の美弥には連絡をいれ、高耶の様子を報告し、父親の様子を訊ねてある。
かなり元気がないらしい。
お兄ちゃんが戻ってこれば元気になるよ、と美弥は言っていたけれど心配だ。
この状態で高耶が松本に戻ったとしてもまた同じようなケンカを繰り返してしまう可能性もある。
高耶のあの不意打ちキスには直江も大変驚いた。
まさか高耶があんなことをするとは思ってもみなかったのだ。
はっきりと父親に直江と一緒に居たいと宣言してくれた高耶。
嬉しいのだが、複雑な心境。
できれば穏便平穏にふたりの仲を祝福して欲しかった。
「弱ったな」
高耶と一緒に居られるのは嬉しいが、父親とケンカしたままの状態では素直に喜べない。
この十日間、直江はそんなことばかり考えていた。
とりあえずこんなところで眠っていては風邪を引いてしまう。
直江は高耶の肩を揺さ振って起こそうとした。
「高耶さん。起きてください。こんなところで眠っていたら風邪をひきますよ。そうなったら勉強どころじゃないでしょう?体調管理も立派な受験勉強のうちですよ」
「ん・・・なおえ・・・?」
「昨日も遅くまで勉強してたんでしょう?今日はもう休んだらどうですか」
テーブルと仲良くなっていた上半身を起こし、高耶はう〜んと大きな伸びをした。
数回瞬きをして、転がっていたシャーペンを握る。
「もー少しだけやってから寝る」
「無理したからって頭に入るものでもないでしょう。ゆっくり休んで、それから勉強したほうが理解できると思いますよ」
「しょうがねーだろ。オレ、頭悪いんだから。そーでなくても進むの早いから予習してかねーとついてくのが大変なんだ」
「勉強が身につくよりも先に身体を壊します。そうなったら意味がないでしょう」
「直江のバカ」
そう吐き捨てて高耶は直江を無視して参考書に目を移す。
高耶が何のために頑張っているのか、直江は全然わかっていない。
大学に進学するのは自分のためではあるが、直江とずっと一緒にいることを父親に認めてもらう最後の手段なのだ。
これに失敗したら後がない。
100%合格する自信などまったくないが、一旦口に出してしまった以上は高耶も撤回するつもりはなかった。
ぶち切れて短慮なことを言ってしまったと言う後悔はある。
直江の意思を訊かないままふたりのこれからを高耶の一存で決めてしまったのも悪いと思っている。
直江と離れたくないから大学には現役で合格するのだ。
自分の意思を貫き通そうとするなら多少の無理は必要。
たとえ睡眠時間を削ろうが、何かを守りたいと思えばそれ相当の代償は覚悟しなければならない。
「あなたを心配してるんですよ。ここで無理してあなたが身体を壊せば、松本にいるお父さんだって心を痛めてしまいます」
「親父の話はするなっ」
高耶が直江を睨む。
「お父さんのことも少しは考えてあげなさい。わたしだって高耶さんのお父さんにあなたとのことを反対されるのは心苦しいです。だけどね、高耶さん。親が自分の子供を心配するのは当たり前のことなんですよ。あなたのことを心配していなければ、本気で怒るようなことはしないでしょう?」
「じゃ、おまえは親父が認めなかったらオレと離れたっていいと思ってんの?」
「どうしてそこまで話が飛躍するんですか。わたしがあなたと別れるなんて天と地がひっくり返ったってありえません」
「嘘つけ。親父のこと考えたら、おまえと一緒に居ること選べねーじゃないか。それなのに親父のこと考えろっつーのか?おまえが?だったらどうして指輪なんてくれたんだよ。あんな場所でキスなんてしたんだよ。おまえ、オレの気持ちなんて全然わかってないじゃねーかっ!!」
「少し落ち着きなさい。わたしが言いたいのは・・・」
「言い訳なんか聞きたくないっ!」
叫んで高耶はテーブルの上にあった参考書と筆記用具を抱えて部屋を出て行くために直江の脇を通り抜けようとした。
その腕を直江が掴む。
「どこへ行くつもりですか」
「ひとりで勉強できる場所!」
近所に二十四時間営業のファミリーレストランがあったはず。
そこで明け方まで時間をつぶせばいい。
少し仮眠をとって予備校に行けば講義の時間までには十分間に合う。
高耶が直江の腕を払おうとしたが、力を込めて掴まれた腕は一向に振り払えない。
「離せよ」
「嫌です、離しません。あなたのそういう頑固なところはお父さんそっくりですね」
言いながら直江は高耶の身体を救い上げるように抱き上げた。
参考書と筆記用具が床に散らばる。
手足を振り上げて抵抗する高耶を直江は寝室に連れ込むとベッドの上に放り投げ逃げられないように覆いかぶさった。
「何のつもりだよっ!離せよっ!!」
「黙りなさい」
静かにそう告げるとキスで高耶の言葉を封じる。
「んっ」
反射的に唇を閉じる。
直江の舌は閉ざされた高耶の唇を巧みに割り開き、口腔内に侵入すると逃げる舌を強引に絡めとった。
強く吸われる。
上顎や歯茎を舌先でつついて刺激する。
直江の手は高耶のシャツの裾から滑り込み肌の上を弄った。
敏感な胸の突起を探り当てると指で愛撫し始めた。
「んっ・・・う・・・んっ・・・」
塞がれた唇の端から声が漏れる。
直江と一緒に居たいから頑張っているだけなのに、どうして当の本人からこのような仕打ちを受けなければならないのか。
涙が溢れてきた。
直江の考えてることがわからない。
直江だって高耶と一緒に居たいと願ってくれているはずなのに・・・。
首を激しく振るとようやく直江の唇から解放された。
「どうして、こんなコトするんだよっ!」
「・・・」
無言のまま直江の手は高耶の下肢に伸びる。
中心部分に触れるとそのまま軽く力を込めた。
高耶の背中がびくりとしなる。
「今はそんな気分じゃないんだ。頼むから、離して」
高耶の懇願も聞き入れず、直江はボタンを外すとズボンごと下着を剥ぎ取った。
クーラーの冷気に冷やりとする。
直江は高耶の足を持ち上げると割り開いた部分を舌先で湿らせ、性急に己の屹立したモノを押し当てた。
「やっ、なおえっ・・・!」
高耶が悲鳴をあげるが直江は聞き入れず一気にそれを高耶の中に押し込んだ。
ほとんど慣らされていないソコはいきなり押し入ってきた圧迫感に耐え切れず悲鳴をあげる。
「痛っ・・・やだ、直江っ!」
腰を押さえ込み貫かれる痛みに高耶は直江の首にしがみついて背中に爪を立てた。
ぐいぐいと押し込まれる直江の雄に徐々に開かれていく高耶の身体。
悲鳴はいつしか嬌声に変わり、高耶の意思とは無関係に捕らえこんだ場所は直江を食らい尽くさんばかりに締め付けていく。
「ん・・・ん・・・」
頭の中が真っ白になる。
高耶自身もすでにはちきれそうなほど勃ちあがっていた。
突き上げられるたびに疼く。
「あぁ・・・っ!」
悲鳴と同時に射精した瞬間、高耶の意識は吹っ飛んでいた。
枕元で目覚まし時計が鳴る。
無意識のうちに手を伸ばし、ベルを止めたところで頭が覚醒した。
気がつくと薄いカーテン越しに太陽の光が差し込んでいた。
直江に衣服を剥ぎ取られ裸のままだったはずなのに、いつの間にかパジャマを着せられていたようだ。
髪の毛をかきながらベッドから這い出ると高耶はリビングに向かう。
テーブルの上には一枚のメモ書き。
書いた人物の几帳面さがうかがえる丁寧な文字。
宇都宮の事務所に行ってきます。
帰りは遅くなりますので、先に夕食を済ませていてください。
「あのやろー・・・」
何事もなかったように出て行きやがって。
顔を洗って冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを一気飲み。
そして思いのほか頭がすっきりしていることに気づく。
直江にされた行為により意識を飛ばしてから高耶は知らない間に熟睡モードに突入していた。
「そーゆーことかよ」
口で言っても聞かないから実力行使に出たというわけか。
行為自体は褒められたことではないと思うが、直江の作戦はある意味成功していた。
予備校に行く準備を済ませて部屋を出る。
授業が始まるまでには少し早かったので講義室で参考書を広げて昨日できなかった問題を解いてみた。
「あれ?」
昨日はさっぱり理解できなかった問題が解ける。
気持ちばかり焦って空回りしていたのだ。
講義が始まってからも講師の話はすんなりと高耶の頭に入り込んでくる。
父親とケンカして家を飛び出してきてから、冷静になって考えることがなかったのを思い出した。
予備校からの帰り道、高耶は珍しく公園の中を横切り誰も居ないブランコに座った。
小さい頃は美弥と一緒に父親に連れられて近所の公園で遊んだ。
ブランコの背中を押してもらい、空に近づくほど高くブランコをこいだのを覚えている。
父親の優しい笑い顔。
何があってもどうなっても、高耶の父親はたったひとりしかいないのだ。
「あーもう、ちくしょうっ!!」
喚いて立ち上がり、バッグの中から携帯電話を取り出した。
メモリを探して発信ボタン。
『はい、仰木です』
「美弥か?」
『え?お兄ちゃんっ!?』
「元気でやってっか?」
『美弥は元気だけど・・・お兄ちゃんこそどうなのよ。体調崩したりとかしてない?大丈夫??』
「オレは平気。親父は?まだ仕事か?」
『帰ってきて今お風呂入ってるよ。代わろうか?』
「いや、いい。・・・あのさ、元気でやってっからって言っといてくれるか?」
『ん、わかった。伝えとくね』
「十一日にはそっち帰るから。は?土産?わかった、直江に聞いて美味いやつ買ってきてやるよ。じゃあな」
電話を切って軽く息を吐く。
まだ面と向かって素直にはなれないかもしれない。
だけど・・・歩み寄ることはできるはずだ。
大学に合格して、それからもう一度話をしよう。
自分が、どれだけ直江を好きなのか。
どれだけ大切に思っているのか。
好きの意味は違うけれど、直江も父親も、美弥も高耶にとっては大切なひとたちだ。
傷つけたまま離れたくはない。
だから、まずは一歩を踏み出すのだ。
この思いが届くように。
=END= [クリスマスの奇跡]へ続く