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空のごとく海のごとく
第一章 始まりは突然に
第二節 出港 太陽も空の頂上あたりまで上り、そろそろ昼時を迎えようとしていた。トニーの家から港町――シャンまではかなりの距離がある。女子供の足では半日弱ぐらいかかる距離だ。ウィムとセレスは半日かけて、やっと辿り着いた。 やっと辿り着いた、というのもその道程は決して短くなかったからだ。 「ここが港町ですか。ウィム、ここから船に乗るのですね。あの建物は何ですか?」 セレスはキョロキョロと辺りを見渡して、 「どちらに船があるのですか? あの壁のところにいらっしゃる方は何をしていらっしゃるのですか? それにあちらの人は…………」 ウィムは少なからずうんざりとしていた。 「あ、あのさ。お嬢ちゃん」 「はい?」 セレスはウィムの方に向き直り、小首を傾げた。その瞳はあまりに純で、無垢なことか。信じて疑わない瞳……。その意味するところは、 赤子同然であると言うことであった……。 ここまで辿り着く間に、いくつの質問に答えただろうか――……。 根気強く答え続けてきたウィムだがもうそろそろ限界である。 「腹減らないか?」 セレスは自分のお腹に手を当ててみると、……思いのほか、それは高い音を立てて意思表示をしてくる。 あ、とセレスが口を丸くして、頬をほのかに染めた。上目遣いの瞳は、何故お解りになるのですか? と訴えている。 おいおい……、とウィムは頬を人差し指で掻いて、大きく息を吐いた。 「洒落た店とはいかないが、とにかく店に入ろうか……」 ウィムは美味しそうな匂いがする方へと向かってずんずんと歩き出す。セレスはそれにキョロキョロとしながらも何とかついて行った。一件の店の前に辿り着くとウィムは顎に手を当てた。 「ここにするか」 中に入ろうとして、セレスがまたも突拍子のない声を上げた。振り返るべきか、はたまた――……。 「…………」 セレスはウィムの上着の裾を引っ張る。無理矢理笑顔を作って――、 「どうした?」 「あの……、私……お金を持っていません。どうしましょう……」 呆気なく崩れてしまう。とうとう、ウィムはまじまじとセレスの顔を眺めて嘆息した。セレスがお金を持っていないことは端から知っている。今更何を言い出すのか……、お嬢ちゃん……。時差呆けのように一時遅れて、諦めにも似た境地に達する。 今、ウィムにはひたすら根気強く、乾いた笑顔を振りまくほかこの現状を解決する手段は残されていなかった。 <続> |
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