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up date 04/10/10

空のごとく海のごとく
第二章 明かされる真実を胸に
第一節 空賊船


 船長室を出ると二人の手下がバルバを待ちかまえていた。
「あんた凄いな」
「何が?」
 手下の一人、アンシャが感嘆の声を上げてきた。
「お頭の部屋から無事に出てきた奴を初めて見たぜ」
「?」
 アンシャの言葉を継いだのはもう一人の手下、ジャンだ。バルバを案内しながら続ける。
「お頭の部屋は通称『最後の晩餐』って言われてて、生きて出てきた奴なんてほとんどいないんだ」
「ふぅん。美味しかったぜ」
 やっぱりそうか、とバルバは思った。
「あんたは最初から光るところあったからな〜。それで『最後の晩餐』に連れて行かれたんだけどな」
「どういうことだ?」
「価値もない人間、お頭が生かしておくわけないだろ」
 もっとも、と言ってアンシャは付け加える。
「あの食事でお頭が気に入らなければどこかで毒入りの食事出されてアウト」
「食べないようならすぐこれさ」
 と、自分の首の前でジャンが手首を回してポーズをとる。
「ま、食事始まる前にほとんどの奴、泡吹いて気絶して終わりよ」
「あんたのお頭凄いんだな」
 二人はまあね、と誇らしげに言って、アンシャは扉を開いた。
 そこは機関室だ。
「ここが今日からあんたの仕事場と寝床だ。よろしくやれよ」
「ピオーネ。念願の助手だ。手厚くしてやれよ」
(ピオーネ?)
 ジャンが大声で叫ぶと丸顔の若い男がのそのそと現れた。
「なんだよ。夜中だぞ。そんなの明日にしろよ」
「そういわずに、よろしくやってくれ」
 ジャンがピオーネの肩を叩く。
「それじゃな。ウィム。頑張れよ」
「こいつ案外厳しいから」
 そう言い残すと、二人は出て行ってしまった。
「仕事は明日からだ。適当な場所に寝てろ」
 不機嫌なピオーネはぶっきら棒に言い放ってベットに向かう。
 猫背で、目の離れた顔に瘤のような鼻、背は高くない。
(…………)
 間違えない。
 この男、元ロダリオ財閥の造船部機関士局の局長補佐だったピオーネ・フルトだ。二年前、財閥の金を横領して姿を消した男。まさか賊になり果てているとは。
 見つからないわけだ。
「命令されたら、返事するもんだぞ〜」
 ピオーネはのろのろと二段ベットによじ上る。
「はい、以後気を付けます。会社の金を横領して逃走中の元局長補佐殿」
「!?」
 思わぬ返事にピオーネは梯子を踏み外してしまった。機関室に尻餅をついた。
 慌ててピオーネはバルバのほうを向いた。薄明かりの中、必死で声の主を確かめようと目を細めた。確かにピオーネにも聞き覚えのある声だ。
 そして、その人物が誰であるか確認すると、ピオーネは驚愕と恐怖で青ざめた。
「思わぬところで会ったな。ピオーネ・フルト」
 ここがどこだか分からないほど混乱して、ピオーネは狼狽した。
 それにもましてバルバは意地悪く笑みを投げかける。
「……バ――」
「おっと喋るなよ。今の俺の名はウィムだ」
 バルバはピオーネに近づいてしゃがんだ。
「まさかこんなところにいるとはな。見つからないわけだ」
「…………」
「仲良くしようじゃないが、ピオーネ」
 バルバの表情は相変わらずだ。口元に笑みを乗せ、目は誰よりも冷え切っている。
 ピオーネにバルバは賊長のサリを超える恐怖心を植え付けた。眼力の鋭さはピオーネの見慣れた盗賊の眼力を遙かに超えていた。

<続>



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