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up date 04/10/24

空のごとく海のごとく
第二章 明かされる真実を胸に

第二節 決意


 こんなことになるなんて……
 ウィムは分かっていた?
 違う。
 ウィムは……!!



「ヒッ、近寄るな!!」
 ピオーネは後ずさった。
「なんだよ。そんなに恐がんなくても。師匠ぅ」
 バルバは口を尖らせた。
「猫なで声を出すな!! 鳥肌が立つ」
 今日一日バルバはセレスを連れ添って船内を巡り、一応、バルバの職場である機関室にいた。セレスを落ち着かせるにはいろいろ見せるのが一番かと連れ回したのだ。そして、とうとうセレスもバルバと離れて大丈夫になったので、一人機関室に戻ってきた。
「そこに座ってろ、頼むから」
「別にいいじゃん。間違ってないか確かめられるのは俺だけなんだぜ」
 ピオーネはバルバの指示通りにエンジン、特に蒸気のところをいじくっていた。
 今日一日ピオーネは船長室に『ウィム』の正体を告白しに行こうと試みたが。『たまた、ま』通りかかったバルバにことごとく邪魔され失敗した。どこからか付けてきているのではないか、と何度思ったことか。
 この神出鬼没の奇人に怯える一日にピオーネはうんざりしていた。
 これが『ウィム』と言われる所以なのかもしれないが。
「確かにな。師匠の腕じゃ。これが限界だよな」
「うるさい」
 この男が師匠、師匠って呼ぶのも嫌がらせの一つだ。耐えねばならない。
「あと十年うちの機関士やってたら、もっとましな機関士になってただろうに」
「…………」
 ロダリオ財閥からピオーネは横領して雲隠れしたのだ。もう、あれ以上いたら逮捕は完璧だった。身から出た錆ではあるが、確かにバルバの言うことは正しい。ロダリオ財閥は飛空挺の最先端技術を持ち合わせている。事実上、独占企業だ。だから、グサグサと刺さるのだ。それを昨日からねちねちと――……!!
 そろそろ限界に達していたピオーネだが、バルバに勝てないことも明白だ。この船内実力ナンバー二のあのジルクード・ダッチを投げ飛ばして、お頭のサリ・ステライアと互角にやったとなれば、武術に長けていないピオーネでは結果は明らかだ。
「あ、その閉め方緩い」
「…………」
 力の限りにピオーネは絞った。バルバの首を絞めるかのように。
「せっかく指摘してやったのに」
 殺してやりたいぐらいの才能。はっきり言ってロダリオ財閥におけるどの分野に関してもこのバルバ・ロダリオ以上に優れているものはいないのだ。機関分野も例外ではない。一番を目指したい奴はここの関連会社に行くべきではないともっぱら言われている。
 今も彼の指示で蒸気の出力具合を利用して、この船の進行航路を変えているのだ。操舵室には気付かれないように。こんなことを思いつくのはバルバ・ロダリオぐらいだろう。
「手元が狂うだろ」
 ピオーネは苛立って髪を掻き上げる。
「だから俺がやるって言ってるだろ」
 言い返しても無駄だってのに言い返してしまう自分自身に腹が立つ。
「明け方までには海の真ん中に着きそうか?」
「どうにかなるんじゃないか。もっとも操舵室の奴らが任務怠慢なら」
「…………ふぅん」
「それより、横領金は帳消しに本当にしてくれるんだろうな!?」
 ピオーネはこちらのほうが気になる。
「…………大丈夫」
 頼りない返事に大きくため息をついた。
 実はピオーネの話など耳に入っていなかった。聞く耳持たなくても言わんとしれてる。それにこの技術がピオーネごときに立派にこなしえないことも、バルバには分かっていた。それでもピオーネにやらせているのは他でもない。
 すべて計算の内だ。
 決断は早かった。サリ・ステライアとの食事を終え、ここに向って歩いている時から、脱出の算段を考えていた。
 サリという男、話してみて改めて分かったことがある。やはり、ただの空賊ではない。上流階級の匂いが色濃くする。武術だけではなく、非常に頭も切れる。既に『ウィム』の正体に半ば気付いているようだ。それだけの知識も持ち合わせているようである。
「…………」
 正体がばれるのに、持って三日とバルバは踏んでいる。それ以上経てば確実に正体をサリは掴むだろう。確信がある。彼ならやる。既に手は打っているはずだ。そうなれば、確実にバルバはロダリオ財閥の取引に利用される。その後の人質の末路など明らかだ。
 それに、
 彼女のために今自分が出来ることは一つしかない。
 深海の女神の聖域たる海底洞窟にロダリオ家の家宝――深海石を取りに行くことだ。
 そうしなければ彼女を自由に飛ばしてやることができなくなる。
 それでなくてもセレスと一緒にいては、自分が彼女の足枷になる。
 無論、その場所にセレスを連れて行くことは出来ない。行けるのは、バルバだけだ。
 幸い、サリ・ステライアという男、非情であっても温情は持ち合わせているようだ。そして、なにより約束は守る。味方につければ誰よりも頼もしい男。
 俺はセレスを守ると決めた。だから――。
 これは賭だ。
(大丈夫。……――セレスならできる)
 サリに切り札となるロダリオ財閥会長――自分というカードを持たせなければ、
 勝算は、ある。
 心臓が高鳴るのと裏腹に、妙に研ぎ澄まされ冷静になる自分を自覚する。
 決行までまだ時間はかなりある。
 バルバはコートを着込みその時を待った。

 

<続>



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