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空のごとく海のごとく
第二章 明かされる真実を胸に
第二節 決意
何故? どうして? 頭はそれで一杯だった。訳が分からなくて、許容量を超えた脳はパンク寸前だった。 ――――残念だが、助からない。 サリ・ステライアはそうセレスに告げた。 何百メートルという上空から身を投げた。下は深海の海だがそれはコンクリート塀となってウィムの身体を打ち砕くのは明白な真実だった。 信じられない。 それが今の感想だ。ついさっきまでここで彼はセレスへ笑顔を向けていた。 「――――」 その彼はもういない。 信じられない。 セレスの前にもう二度と現れない。 信じられない! 信じたくない!! 死というものを初めて実感したのは祖母が死んだ時だ。あの時は動かない祖母を見て、止めどない涙を流した。触れると冷たくて嫌でもその死のイメージを実感した。 セレスは自分自身を抱きしめた。 いやになま暖かい――……。 ウィムが抱きしめた温もりが今なおここに残る。 セレスはその手のひらを覗き込んだ。涙は出てこなかった。実感が湧かないのだ。静かに拳を握ると、その空虚さがその手のひらに――……。 焦燥感が込み上げてくる。 祖母が死んだ時にもこんな想いはしなかった。 この感情は味わったことがない。一体どこの引き出しに閉まっておいた心のなのか。 眼を閉じれば彼の気配すら感じる気がする……。 彼はなんて言っていただろう? 私に何を言ってくれただろう。彼の面影を追ってセレスは走馬燈のようにウィムとの思い出を噛みしめていた。本当に少ない思い出だ。 ――――俺の身に何があっても、気にするな。昨日一晩考えたんだが、俺はお嬢ちゃんをカイザル共和国に送っていってやれないと思う。その時は――……。 いつも優しい瞳が研ぎ澄まされていた。 ――――その時は目的を果たすために『手段』を選ぶな。使えるものは何でも利用しろ。 彼は何故あんなことを言ったのだろうか? まるでセレスとの別れが近いことを気付いていたのだろうか。そして、その時の為に助言を残してくれたのだろうか。一人になった時の為に。 ――――目的の果てにまた必ず会えるから。 彼の言葉だけが唯一信じられる。彼はセレスが目的を果たせば会えると言った。 それになぜか死んでないとさえセレスの第六感はいう。 まだ諦めたわけではない。彼を信じて歩く道がある。 目を上げた。今は何も考えずに歩こうと思う。 セレスはゆらりとベットから立ち上がり、鏡を見た。 うっすらと眼を伝う線。 初めて自分が泣いていたことを知った。 <続> |
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