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空のごとく海のごとく
第三章 風は嵐となりて 第一節 目的 ――――空と海を繋ぎし者よ 覇者の名の下に我を包む青銀の外套を与えよ――…… 遙か上空数百メートルからの落下。青銀の仄かな光に包まれると、ふいに速度が弱まった。全身を包んだ青白い光は見事な水龍の刺繍が施されたマントとなる。 真っ逆さまに頭から海の壁へと向かっていた体が徐々に横たわっていくのを感じる。決して落下が止まった訳ではないが、即死の域は脱した。ある程度の速度を保って落ちていく。その速さは地上五十メートルのところから飛び降りていく速さに等しい。 朝日が眩しく海面に乱反射する。 眩しさに目を細めつつも、眼下を悠然と眺めた。まだ海面は遙か下だ。 空中に立ち、雨粒のように落ちていく――。 それは何とも不思議な光景だった。大気に潜む水分がマントを羽織った男の元に生き物のように馳せ参じて、彼の身体を支えようとしている。必然的に彼の下に回り込んだ水分は圧縮され濃紺の半球を作り上げていた。 結んでいた髪紐が解けて髪が舞い上がる。朝日に透ける焦茶色の髪は黄金に輝いて、より一層純白を際立たせたロングコートが翻る。 「――――……」 バルバ・ロダリオは恍惚と空を見上げた。 マントが変容して彼を球状に包む――。 鈍い衝突音が響いた。 速度は減退することなく、海底へと突き進む。 今度は海という大きな生き物がバルバを飲み込んだ。みるみると海底へと突き進む。その速度は止まるところを知らない。海水は彼を押しつぶす為にあるのではなく、守護するためにあるようだった。バルバを生かすために。水分は自らの存在を酸素と水素に分解して、酸素は彼の周りを漂った。球状の中は酸素で満たされ、水圧で押し潰されるはずの身体も別段変わりがない。 その空間が異様だった。 青白く輝き、彼を包む。祝福されているかのごとくいろいろな生物が周りを漂う。 深海底――音も光も届かない。 人智を超えた海域――。 バルバは沈む先を見つめた。黒い画面に一つ針で穴が開けられたほどの光。極小さな光が目に飛び込んでくる。 「…………」 海底一万メートル――……。 人が踏み入ることが出来ない海域に達しつつあった。深海の女神の聖域といわれる海底洞窟。青白い光を放ってバルバを誘う。彼をくるむ青白い光と海底洞窟の光が互いに引き合うかのように、洞窟へと吸い込まれていった。 <続> |
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