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up date 05/4/3

空のごとく海のごとく
第三章 風は嵐となりて
第一節 目的


 ロカ・ダーツからカイザル共和国までは丸一日かかった。
 ジルクードは御者席に座り、馬車の中はサリとセレスの二人だけだった。
「――――……」
「…………」
 共和国に入ってからというものこの二人の会話は極端になくなった。その代わりにセレスは時々、恨めしげに隣のサリを上目遣いで眺めて、また窓の方に目をやった。サリはというと別段気にしないで目を瞑っている。
(……どうして何も答えてくれないのかしら!?)
 サリもジルクードも笑ってはぐらかすばかりで、真面目に答えてくれない。
(ただ――……)
 彼の屋敷で見た紋章――羊の角笛とそれに弦巻く葡萄に――、
(見覚えが、ある)
 どこで見たのだろうか――?
「そろそろ着くか――」
「え?」
 セレスは現実に引き戻された。
「目的の場所さ」
 怪しく輝くサリの瞳がセレスを見た。
 段々と馬車の速度は落ちていった。

 ダレスが屋敷に居座ってから早三日を数えていた。
「一体いつまでいる気なんだ?」
 ウィリアム・ビルダードは一人呟いた。いつもより低めの一本調子で、いつものごとく無表情だ。
 ダレスはわざとらしく大声で、当主が出て来ない嫌味や悪口を屋敷の至る所で言って回っている。頭を抱えることにそろそろ屋敷中が限界を向かえつつあった。使用人達の不服も直接ウィリアムのところへ来るようにもなってきている。その中での救いは誰もダレスに毒されないでいることぐらいだ。
 明日はパレスリンチに行かなければならないのに――……。バルバはまだ帰って来ていない。
 だからこそ!!
 ダレスにはそろそろ帰ってもらわなければ困る。でなければ、明日の会議までの準備ができない。こちらにはこちらの都合がある。
 ウィリアムは大きく溜息をついて、椅子に寄りかかった。視界は良好だ。もう視界を妨げる本の柱はない。
 もう、ほとんどの用意が調っていた。
(やはり――……)
 今やらねばならないことは――……、ダレスに帰ってもらうことだ。
 ウィリアムが腰を上げかけた時――、
 ノックをして使用人が入ってきた。
「失礼します」
「ダレス様のことか?」
「いいえ! 違います!」
「…………」
 最近、ウィリアムの執務室を尋ねる召使い達は苦情の件ばかりだったので、つい先手を打ってしまった。
「何だ?」
「はい。アポなしのお客様がお見えなのですが……。いかが致しましょうか?」
 アポなしでこの屋敷を訪れるのはダレスぐらいだ。
「誰への面会を希望しているんだ?」
「バルバ様なのですが……」
「だったら追い返せと言ってあるだろう」
「ですが――……」
 一体召使いは何を悩んでいるのだろう。
「何だ?」
「ロカ・ダーツの公子だと仰るのです」
 ロカ・ダーツ? なかなかに遠い場所だ。それほど遠くないのだが、ここまでの道程で車が使えないのでなかなか遠くなってしまう地域なのだ。
「名は?」
「はい。フィネガン公爵家のサリだと――」
「フィネガン公爵家だと!? サリ・フィネガン?」
 ウィリアムは声を潜めた。召使いが頷く。
 フィネガン公爵家といったら、世界有数の貴族である。世界最古の国――ロカ・ダーツは大地の女神の聖地で、そこの公爵の発言力は絶大だ。
 だが――、ロダリオ家はフィネガン公爵の公子は勿論、フィネガン公爵家の誰とも面識がない。それが何故バルバを尋ねてくるのか?
 でも、やはり――、
「応接間に通してくれ。用件だけでも聞こう」
 実力者を無下にはできない。
 どうして次から次へとこういう時に困ったことが起きるのか?
 ウィリアムは恨みがましくも立ち上がり応接間に向かった。

<続>



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