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空のごとく海のごとく
第三章 風は嵐となりて
第二節 取締役会 「大概おまえも役に立たないな」 硬質の声が静かな部屋に響いた。冷え切った部屋はこの毒舌によって作り出されていた。 カイザル共和国一の最高級ホテル――最上階。 サリ・ステライアはソファーに悠然とくつろいでいた。その横にはジルクード・ダッチが普通以上に背筋を伸ばして立っている。目の前の椅子には黒尽くめの男が縛り付けられていた。 「…………」 ジルクードは沈んでいた。 「――申し訳ありません……」 サリはその毒々しい瞳だけを動かして、ジルクードを見た。 「まぁ、いい。起きてしまったことを責めるつもりはない」 サリは使えない、特に信用できない人物は容赦なく報復するのだが、ジルクードは例外だった。 「使えると言うだけで、ジル。おまえをそばに置いている訳じゃない」 「…………はい」 勿論、ジルクードは肝に銘じている。親愛の情があることを重々理解しているのだ。 サリは指を交差させて、目を閉じた。 「それでこの男がセレスティを攫ったのか」 「はい」 ジルクードの瞳が暗く光った。捕まえた当初は意識を保っていたのだが、あまりの乱暴で気絶させてしまったのだ。 「賊から横取りするなんて、なんて度胸がある連中なんだろうな」 「…………」 サリは自分の言葉を楽しんでいる。綺麗な花は棘を隠してはいない。 「ジル。この連中をどうしたい?」 「…………。殺します」 願望ではない。断定だ。背に迫力を背負って断言する。 一頻り笑って、サリは眼をカッと見開いた。そして、舌を軽く出して、舐め刷りしてみせる。 「いい答えだ!!」 黒尽くめの男は肩を揺らした。実はとっくに意識は戻っていたのだが、あんまりに危険な雰囲気に起きるに起きられなかったのだ。 (き、聞いて、――ない……) 男は明らかに動揺していた。 襲った相手が盗賊だなんて――……。 「そろそろ眼を開けたらどうだ」 サリが命じる。その言葉は静かだ。だが、否とは言わせない迫力が――……。 (ば、ばれてる……) 全体から冷たい汗が発汗するのを男はどこか追いつめられた崖の上で感じていた。恐る恐る目を開いた。 「――――……」 「ふて寝は楽しいか?」 完璧な笑顔ほど怖いものはない。壮絶な美貌に凄まれ、男は片頬を引きつらせた。 「さて、どんな拷問がご所望かな?」 血の気が引くのが他の誰にでも分かった。助けを求めてもう一人の人物を見たが、……とりつく島もない。鉄仮面を被って、仁王立ちしている。 交互にサリとジルクードを見やった。 「……あ……、……ぁ……」 傍から見ると非常に滑稽だ。男は言葉を紡ぎ出そうと、助けを請おうとしているのだが、極度の緊張と恐怖でままならない。まるで壊れて繰り返すボイスレコーダーのようだ。 拷問なくしてここまで人間を追いやるのだから、拷問したならばどうなるのだろうか。非常に興味深いところでもある。 「はっきり答えてみたらどうだ」 ジルクードは出来ないと分かっていて、意地悪を言う。プライドを傷つけられた分いたぶらなければ面白くない。 「……ひ……、……ぃ……」 二種類の残忍な、冷ややかなオーラに包まれて、改めて目の前にいるのが野蛮な賊であることを実感する。もう生きた心地はしない。 「一本、一本指を切っていくのも楽しいな」 サリははっきりと呟いた。 「サリ様。それでは在り来たり過ぎませんか?」 「そうか? それでは――」 喜々としてサリは話に乗ってくる。どれもこれも一回はやったことがあるようだ。やけに細かいところが詳しい……。 (あ、あぁー――……) 男はくてっと首が萎えた。白目を剥いて死ぬのが一番苦しまないのではないか。 勿論、そんなことを赦すサリとジルクードではない。 果たして、この男の運命はいかに――……。 <続> |
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