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空のごとく海のごとく
第三章 風は嵐となりて
第二節 取締役会
悪魔のごとく美貌の持ち主はどこか晴れ晴れと足を組み替えた。頬杖をついて優雅にサリ・ステライアは座っている。その瞳は血のごとく赤黒い光を放っていた。 「ほほーう。ダレス・ロダリオ?」 サリはその名を知らないといった仕草をして見せた。 「聞いたことないな」 「誰だ? そいつ?」 ジルクードはサリの思ったことを代弁する。 「……――――……」 黒尽くめの男は椅子に繋がれたまま、目にも当てられない程、顔を腫らせていた。猿轡の代わりに詰められていたタオルは切れた唇で紅く染まっている。手の指や足の指は血を流してはいたが辛うじて繋がっていた。だが、どこもかしこも青痣が広がっている。黒い服は所々切れて、みみず腫れが見え隠れする上、太股のところは蝋がたっぷりと固まって残っている。 一体どんな拷問を受けていたのか――。いや、拷問というものが、白状させるために行われるのならば、これは拷問とは言わないだろう。 男はすぐに降参したし、白状しようとしたのだが、それを許さなかったのはこの二人の方だ。まるで悪魔の実験台の上にいて、何度も失神させられた。二人のやり方は陰湿で、それはそれは言葉に言い表しがたかった。 サリとジルクードは平然と男を眺め、どこか晴れ晴れとしていた。ここ最近の憂さ晴らしをしたような清々しさが溢れていている。実際、この男は飛んで火に入る夏のカモだったのだろう。 サリは上機嫌だ。 「まー、ロダリオと名の付くのだから『ウィム』の関係者だろうな」 クックックと笑い、 「小者だな」 心底、興味なく吐き捨てる。 「おい。それでセレスをどこに連れて行った!?」 「――ッ――……」 頬をぺしぺしと叩かれるだけで激痛が走る。しかし、答えなければいつまでも痛みは治まらない。 「で?」 「……。……――パ、レス……、リン――チ……」 「パレスリンチ?」 男は苦しげに頷く。 「……ダ、――レス、様……――の」 ここで大きく息を吸って、 「お、屋……敷が、……――そこ、にある――……」 「ありがとよ」 「――ッ!?」 と言うなり、ジルクードは鳩尾に一発拳をねじ込んだ。男は崩れ落ちる。そのまま気を失ってしまった。 「パレスリンチとは本当に小者だな」 「ええ、天下のロダリオ一族でありながら、パレスリンチだなんてね」 パレスリンチと言えば観光をメインにした国で、お世辞にも大きな国ではない。加えて、一般的には田舎というイメージが強い。勿論、会社自体はパレスリンチを初め、周囲の地域も担っているので小さくはないのだが。 「まあ、いい。一族全てがあの『ウィム』の性格だと思いたくないからな」 サリは立ち上がった。 「ジル。屋敷に連絡を」 「はい」 サリは着替え始めた。 「少し遊びすぎた。飛空挺で向かう」 シャツを脱ぐと良く鍛えられた筋肉が露わになる。 「こいつはどうします?」 ジルクードは椅子ごと蹴飛ばした。 「…………」 サリの残忍な切れ長な瞳が汚いものを見るように男を捕らえた。 「適当なところに捨て置け。一応、フィネガン公爵の公子としてここにいる以上、父上に迷惑かけるわけにはいかないからな」 「はっ!!」 ジルクードは縄を解くと、男をシーツに包み担ぎ上げた。 「ジル。捨てるところを決めたら、その男に言っておけ」 「…………」 ジルクードの黒い瞳とサリの見事までに紅い瞳が視線を結んだ。二人とも申し合わせたように冷酷に口端を釣り上げ、 「『訴えても無駄だ。誰も信じないし、今日あった出来事を話した日には――……命はないと思え』」 二人は寸ぷん違わず同じ文句をハモってみせた。 <続> |
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