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空のごとく海のごとく
第三章 風は嵐となりて
第二節 取締役会
――案の定、の展開。 「――――ッ……」 ウィリアムは硬く拳を握った。いつでも何かに報復ができる体勢は整っている。つまり、いつでも何かを破壊する準備はできていた。 ――――秘書風情の分際で……!! 初め会議が始まる前、会議室にはウィリアムもいたのだが、その一言で追い出されてしまった。いつものやり方が仇になってしまったのだ。特にダレスに対して権力を行使する場合、バルバの承諾書をとっていた。勿論、今回はそういった類のものはない。それを逆に盾にとられ、取締役会を追い出された。 しかし、ウィリアムも黙ってはいない。ミロードがいない以上、ミロードにことの顛末を伝える義務がある!! と発言して、こうしてモニターで観ることをどうにかこうにか許された。さすがに七割方に否と言われてはウィリアムにもどうすることも出来ない。 「……くそッ……!!」 モニターには堂々とあのにやけた顔が映し出されている。 『――……という訳で、我らが社長は我らの収益を公開する前に数字を書き換えまして……』 雄弁に語るダレスに待ったをかけるのはジェンキンズだ。 『しかし、証拠が……』 『証拠なら今、挙げたではないですか!! これ以上になにか不満がお有りか?』 『……その証拠が本物という証拠はない』 『まさか!! 皆さん。これが偽物に見えますか!? 社長は市長に賄賂を送った!!』 ダレスは大げさに書類を皆の前に突き出す。異議を唱えるのはハーバー・ジェンキンズだけで、賄賂をもらわなかったもう一人のイワン・バーグは最年少で萎縮してしまっている。彼にとって突っ張るのは賄賂までが限界だったようだ。その他大勢は首を縦に振るばかりだ。 ジェンキンズは舌打ちした。 『こちらにだって証拠はある!! この調査書を見よ』 ジェンキンズも最後の切り札を出すことにした。スクリーンに映し出されたのはダレスの資産の調査書だ。 『ダレス。これをどうやって言い逃れるというのだい? あなたのところに入るこの金額とピン撥ねしたという金額はほぼ一致する。説明してもらおうじゃないか。ミロードのことを言及するぐらいなら、まずは自分の申し立てをしてみなさい』 してやったり!! と思った。これでダレスの口は封じられると思った矢先――。 『ほほーう。面白い資料ですな。しかし、それはわしの知らない口座ですなぁ。勝手にバルバがわしに見せかけるために開いた銀行口座ではあるまいか?』 『!!』 「!?」 これにはジェンキンズもウィリアムも絶句した。 ダレスは知らぬ存ぜぬでこの場を切り抜けるつもりだ。 「では、それについては後日、お調べいたしましょう」 そんなことをさせたら手遅れだ!! 銀行員に金を掴ませ闇に葬り去られる。 しかし、調べると言われた以上、ジェンキンズも引き下がらざるを得ない。 『それでは、皆さん。よく考えて頂きたい。このような不祥事があからさまになるまで数日しかない。いや、もう一日も残されていないやもしれぬ。このまま、現社長のバルバ・ロダリオに会社の命運を任せてもよろしいか? 良く考えて手を挙げて頂きたい』 ダレスはこの会場にいる全ての人に目配せを送る。そのほとんどはダレスによって飼い慣らされている。 『それではバルバ・M・ロダリオに取締――……』 バンッ!! 「…………」 ウィリアムは両手で机を叩きつけて、立ち上がった。 もう、黙ってみていられない!! 会議室に向かう。ダメで元々、もう我慢不能だった。 勢いで押し開いた扉は思いのほか軽い。つんのめりかけて――……。 「!?」 「おっと!? 危ない。そんなに急いでどこに行くんだ?」 ウィリアムを受け止めた思わぬ壁。ばっと突き放して見上げた先には――、 「…………」 人に不思議と安心感を植え付けるあの余裕の笑みがあった。 どうやらウィリアムは最後の最後で金棒を手に入れたようだ。 <続> |
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