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空のごとく海のごとく
第三章 風は嵐となりて
第三節 再会
辺り一面は白かった。その他の色はない。影すらもそこには存在しない。 バルバは起きあがった。 いや、起きあがったという表現も正しいのだろうか。足の下が地面だということも不確かだ。 それに腕の中にいたはずのセレスがいない。先に目覚めたのだろうか? 辺りを見回したが影も形もない。自分以外の気配すらない。それともここは死後の世界なのだろうか――……。 「…………」 しかし、自分が死んでるなど感じさせないほど生々しい感覚がある。バルバは歩み出した。そう、不安とは裏腹にバルバはここがどこなのか、なんとなく判っていた。だから、不安があっても恐怖はない。 白む視界が段々と染まっていく。 その色は青だ。深みのある群青。 そして、その発光源に辿り着くとセレスはいた。 「セレス!!」 海を凝縮したような青い石を抱いて眠っている。セレスに触れようとした瞬間――!! 「!?」 セレスの瞳がぱっちりと見開かれた。咄嗟に手を引っ込める。 『時は満ち足り――……』 セレスではない……。セレスの口からセレスの声とは全く違った女性の声が発せられた。 「おまえは――……、誰だ?」 バルバは慎重に言葉を選んだ。セレスは立ち上がり、その焦点の合わない目をバルバに向けた。 『我は天空の女神――ディオーネ……次代の守護神にして審判を任されし者……』 バルバは喉仏を上下させた。 (ああ、もしかして、これが……) 『深海の英知を授かる末裔よ。そなたには選ぶ権利がある』 セレスは大きく両手を広げてみせた。右手を持ち上げ、 『維持と繁栄か』 右手の上に淡い青い光が生まれる。深海石のレプリカのようだ。 左を掲げ、 『発展と混沌か』 左手に無垢な白い輝きが生まれ、天空石の形を象った。 「…………」 先祖代々連綿と『維持と繁栄』を選択してきたからこそ、現在があることは知れている。きっと迷うことなく、その選択をしてきたのだろう。けれど、そう簡単に選べることが出来るのだろうか。自分に選ぶ権利があるのだろうか? 「そもそも生命を生むってことは、この世界の独自の進化を許したも同然なんだ」 ディオーネは静かに見つめている。 「だから、神様に干渉される必要はないと思わないか」 たとえそれが創世の三女神でも。 『…………』 この世界を動かしているのは数多なる地上の生物だ。オルディーネでも、ディオーネでも、ウッディーネでもない。たとえ地球上の生物が女神に作られた存在だとしても。 『そなたの選択は何だ?』 「俺の選択は――……、全ての放棄だ」 バルバはしっかりとディオーネを見据えた。 「もうこの世界は神の手から離れても十分やっていける。それだけの知恵と能力を持っている。だから女神の力なしでも発展も繁栄も維持も自らの手でできる!!」 揺らぐことのない決意。いや信念か。 「俺は信じてる」 『――……時の節目が訪れるたび、我は問うてきた。選択と理由を』 ディオーネは何を今想うのか。 『そなたのような解答は初めてだ。神はいらぬと? その手を離れたと?』 セレスに似合わない険しい笑みが刻まれた。 『――面白い。面白いぞ……。そなたは深海の覇者より面白いかもしれぬ』 「?」 『我が最初で最後の認めた真の深海の覇者よりも!!』 ディオーネの言うところの深海の覇者とロダリオ家の言うところの深海の覇者は意味が違うようである。 「それじゃ、あんたは俺たち覇者の末裔を覇者と認めたことはないのか?」 『ありはせぬ。皆、その力を受け継ぐには器が小さすぎた。守人程度までよ』 威厳ある瞳はバルバを見て離さない。 『しかし、そなたは違うようだ』 ディオーネは優雅に笑った。幾多の末裔がいろいろな選択をしてきたが、天空の女神を満足させる解答はなかった。故に天空の女神は次代を引き継がない。 『そなたを我――ディオーネは深海の覇者として認めようぞ』 セレスの身体から淡い真珠色の光が蛍火のように舞いだした。 『これを以て審判を終了する』 光が一点に収束する。 『我は地上に降り立つ』 意地らしく橙色の双眸はバルバを見つめた。 『我を見つけるがよい!!』 「!?」 真珠色の蛍火は天空石を象り、飛び散った。その一つがセレスの前で鈍く輝いていた深海石に融合する。 ――――そなたを天空の覇者たる候補と認めようぞ――……。 <続> |
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