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空のごとく海のごとく
第三章 風は嵐となりて
第三節 再会
風に金色の髪がなびく――。 セレスは船の行く先を見つめて溜息を漏らした。 「何見つめてるんだ?」 「バルバ――……」 セレスはバルバを見上げた。 「終わったんだなって、『最果ての地』に着いたら……私はどこへ行くのかな――って」 「…………」 「私は一人じゃ何も出来なくて……世間知らずで……」 セレスは俯いた。どうやらここ数日のことを思い出して沈んでいるらしい。 「だからどうした? 知らないならこれから知ればいい」 「でも……」 「手を出して」 胸ポケットから深海石を取り出した。その神石をセレスの手に乗せた。 「!?」 すると――、一筋の光線が深海石から発せられた。指し示す方角こそ天空石の欠片の在処。 「これは――――!!」 バルバが神石を持つとふいに光は途切れ、セレスの手に乗ると光線は再度蘇った。 「これが答えだよ」 セレスの耳元で囁いた。瞳と瞳がかち合う。息が触れ合うほどに――……。 「『審判』を聞いてたんだろ? 俺は神様なんて信じてない。でも――」 一度言葉を切った。 「俺は――『ウィム』なんだぜ」 『気まぐれ』とあだ名されるバルバ。 セレスは目を瞬いた。それを尻目に一歩前に出た。 「今はディオーネの気まぐれに付き合ってやってもいい――と思う」 海を――……、空を――……彼は何を見つめているのだろうか。 ふいにバルバは振り返って手を差し伸べる。セレスへ――……と。 「一緒に旅しないか」 「私は――……」 「いつまでかかるか分からないけど」 バルバはセレスのことなどお構いなしに差し伸べてくる。 「一生かかるかもしれないけど」 「私は――……」 「この旅にはセレスが必要だ」 『必要』――……。 使命を果たし自由を得たセレスが虚しさを感じていたのは、誰からも必要とされていないからだ。 何を迷うことがあるだろうか。この節張った大きな手に、あの砂色の瞳に、あの大きな胸に。何度助けられただろうか――? 彼は自らの身体を張って危険から守ってくれた。セレスにとって最も信じられる、最愛の手。 手と手が触れ合う。 「私でよろし――……」 ――……ければ……。 ふいにグイッと引き寄せられた。間近に迫るバルバの顔がゆっくりとあの悠揚たる笑みを刻んだ。その淡い桜色の瞳はいつもにまして真摯だった。 「約束する」 それは勝ち誇った笑みにも似ている。セレスを信じてみたくなった。 だから――、 「俺はセレスを守るよ」 セレスはかっと顔が火照るのを感じた。 ――――よろしくお願いします。 なんて恥ずかしくて言えなくなってしまう。 言葉は風のごとく、想いは海のごとく。 「セレスをもっとよく知りたい」 これは自分自身への確認。決して誰かに与えるための言葉ではない。 驚くより先に見つめた。離れていた時、彼のことばかり考えていた自分を思い出して、セレスは余計返事が出来なくなってしまう。 為されるがままに、けれど――抵抗はない。 海鳴りが風に乗る。 操舵室の、前方を睨むウィリアムは仄かに頬を赤らめた。少し進行方向から目を逸らして時計を見る。 時刻は夕暮れだ。 海も空もキラキラと輝く。 一日の中で空と海が解け合う一瞬を向かえようとしていた。 「時間はたっぷりある」 誰への言葉か――。バルバは小さく呟いた。 <了> 第三章第三節 エピローグへ続く |
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